第一章 それぞれの歩みと心の裏側

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 そのまま、ぽろぽろと涙を流したので、私はぎょっとする。 「葵さんが言ってることは、分かるよ。だけど、僕は怖かったんだ!」 「怖かった?」 「そうだよ。あんな事件があった後も、僕を支えてくれた麗さんは、僕にとって、とても大きな存在になっていたんだ。  そんな麗さんに、二人の関係を『ただのセフレ』だと決定づけられるのも、ちゃんとプロポーズして、『やだ、あなたなんかと結婚できるわけないじゃない。梨園の妻なんてごめんだわ』って、一笑に付されるのも怖かったんだ。だから、探っていたんだよ。  でも結婚する気はなさそうだし、好きな人と結婚できないなら、誰としても一緒だし、それなら『梨園の妻』に相応しい人でいいやって……」  喜助さんは、子どものように泣きじゃくりながら言う。  いろいろ言っていたけれど、喜助さんは心から麗さんが好きで、それが故に不安だったようだ。 「喜助さん……」  ファンが見たら、幻滅する姿だろう。  だけど、私はこの姿を見て、麗さんが喜助さんの側にいたわけが分かった気がした。  きっと、どうしようもなく可愛かったのだろう。  側にいて、支えたいと思っていたに違いない。  ホームズさんは内ポケットからハンカチを取り出して、喜助さんに差し出した。
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