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そのまま、ぽろぽろと涙を流したので、私はぎょっとする。
「葵さんが言ってることは、分かるよ。だけど、僕は怖かったんだ!」
「怖かった?」
「そうだよ。あんな事件があった後も、僕を支えてくれた麗さんは、僕にとって、とても大きな存在になっていたんだ。
そんな麗さんに、二人の関係を『ただのセフレ』だと決定づけられるのも、ちゃんとプロポーズして、『やだ、あなたなんかと結婚できるわけないじゃない。梨園の妻なんてごめんだわ』って、一笑に付されるのも怖かったんだ。だから、探っていたんだよ。
でも結婚する気はなさそうだし、好きな人と結婚できないなら、誰としても一緒だし、それなら『梨園の妻』に相応しい人でいいやって……」
喜助さんは、子どものように泣きじゃくりながら言う。
いろいろ言っていたけれど、喜助さんは心から麗さんが好きで、それが故に不安だったようだ。
「喜助さん……」
ファンが見たら、幻滅する姿だろう。
だけど、私はこの姿を見て、麗さんが喜助さんの側にいたわけが分かった気がした。
きっと、どうしようもなく可愛かったのだろう。
側にいて、支えたいと思っていたに違いない。
ホームズさんは内ポケットからハンカチを取り出して、喜助さんに差し出した。
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