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彼の姿が見えなくなると、私はホームズさんの方を向く。
「どうして、いつ懐中時計をもらったか訊いたんですか?」
そう問うた私に、ホームズさんは、さて、と口角を上げる。
私は、ふふっと笑った。
麗さんは、きっと喜助さんがホームズさんを頼ってくれたら、と思ったのだろう。
喜助さんに気付いてもらいたい。
喜助さんから動いてもらいたい。
そんな想いをこめて、あの時計を贈ろうと考えた。
だけど喜助さんには、解けない可能性がある。
「きっと麗さんは、ホームズさんに謎を解くお手伝いをしてもらいたかったのかもしれませんね」
そう言うとホームズさんは、どうでしょう、と首を傾げる。
「だとすれば、頼ってくれて良かったです。喜助さん、花の種類から間違えてましたしね」
「そうですね。私も喜助さんも、コスモスだと思い込んでいましたし」
「麗さんが気の毒すぎますね」
本当に、と私は笑う。
「それにしても、麗さんもどうしてそんな回りくどいことを……」
「それは、麗さんも喜助さんと同じだったからでしょう」
「同じ?」
「喜助さんが好きだからこそ、怖かったんですよ」
そういうことなんだ、と私は頷いた。
本当に好きだからこそ、臆病になってしまうことはあるものだ。
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