5438人が本棚に入れています
本棚に追加
二人は同じ気持ちだったのだ。
ふと、お見合いをすることにしたと話していた時の、喜助さんの切なく苦しそうな表情が頭を過る。
あれは、好きが故のやりきれなさだったのだろう。
そういえば昔、ホームズさんに一度別れを告げられ、もう一度会った時。
『どんな理由があるにしろ、僕は円生以上にあなたを傷付けました』
そう言って、ホームズさんは私から離れようとした。
あの時の苦しそうな表情と、喜助さんの表情が重なる。
そして、絵をやめると言っていた円生の表情もだ。
そうか、と私は振り返って、壁に掛けられた蘇州の絵を観る。
もしかしたら円生も、絵が好きだからこそ、臆病になってしまっているのかもしれない。
だから、怖いのだろう。
……だとするなら、心配はいらないだろう。
臆病になるくらい、好きなものなら、やめられるはずがないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!