第一章 それぞれの歩みと心の裏側

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 二人は同じ気持ちだったのだ。  ふと、お見合いをすることにしたと話していた時の、喜助さんの切なく苦しそうな表情が頭を過る。  あれは、好きが故のやりきれなさだったのだろう。  そういえば昔、ホームズさんに一度別れを告げられ、もう一度会った時。 『どんな理由があるにしろ、僕は円生以上にあなたを傷付けました』  そう言って、ホームズさんは私から離れようとした。  あの時の苦しそうな表情と、喜助さんの表情が重なる。  そして、絵をやめると言っていた円生の表情もだ。  そうか、と私は振り返って、壁に掛けられた蘇州の絵を観る。  もしかしたら円生も、絵が好きだからこそ、臆病になってしまっているのかもしれない。  だから、怖いのだろう。  ……だとするなら、心配はいらないだろう。  臆病になるくらい、好きなものなら、やめられるはずがないのだ。
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