第二章 劇中劇の悲劇

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         1  暦は十月も下旬。  秋の寂しさとは無縁の京都は、日々活気を増している。  芸術の秋とはよく言ったもので、この骨董品店『蔵』にも来客が増えていた。  今、ショーウィンドウは、『大正ロマン』をテーマにしたものを飾っている。  マネキンに市松模様の着物と袴を着せ、当時を彷彿とさせる家具を展示。  チェストの上には陶器の置時計、テーブルの上にはレトロで華やかなカップ&ソーサーに、花を思わせるステンドグラスのランプを置いてみた。  この展示がなかなか好評で、通りかかる若い男女が足を止めてくれている。 「ああ、また、通行人が葵さんの展示を見ていましたよ」  カウンターの中で商品を丁寧に拭いていたホームズさんが、手を止めて言う。  掃除をしていた私は振り返って、ショーウィンドウを確認した。  若い女の子二人が、和洋折衷で素敵や、と展示を見ていた。 「本当だ。思ったより、若い子のウケが良くて嬉しいです」 「あの狭いスペースに『大正ロマン』を表現した展示をするなんて、僕には思いつきもしなかったことです。素晴らしいですね」  熱っぽく言う彼に、頬が熱くなって、そんな、と私は身を小さくさせた。 「ミーハーなだけですよ」 「おかげで、うちにある香蘭社の商品も売れてまして、ありがたいことです」 「わあ、本当ですか?」  香蘭社とは、社名は変わってはいるものの、江戸時代から続く有田焼の老舗だ。  私の中では『大正ロマン』のイメージがあり、香蘭社の商品を展示している。  テーブルの上に置いてあるカップ&ソーサーは、金彩に縁どられた中に松竹梅が描かれたもの。  自分のディスプレイがキッカケで商品が売れるなんて、こんな嬉しいことはない。
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