第二章 劇中劇の悲劇

5/10
前へ
/233ページ
次へ
「再び、ドレスを着られるようになったんですね」  笑顔でそう続けるホームズさんに、相笠先生は、ええ、と頷いて、大股でカウンターに歩み寄る。 「やっぱりこういう格好が好きで、戻すことにしたのよ。世間ウケもいいしね。それより、あそこの展示、すっごくいいわね! 私、明治・大正・昭和初期のロマン溢れる雰囲気が大好きなの!」  彼女はショーウィンドウを指して、やや興奮気味に言う。  ありがとうございます、と私たちは頭を下げた。  思えば、相笠先生が好みそうな雰囲気ではある。 「これはもう……運命としか言いようがないわね」  彼女は熱っぽく言って、胸に手を当てた。 「運命?」  何を言ってるのだろう、と私とホームズさんは顔を見合わせた。 「清貴さん――」  相笠先生は、カウンターに手をついて勢いよく前のめりになる。 「お願いがあるの」  その言葉に、少し嫌な予感がするのだろう、ホームズさんは微かに眉根を寄せる。 「……また、撮影会はごめんですよ」  私は思わず噴き出してしまった。  以前も彼女はここを訪れて、ホームズさんに妙なお願いをしたことがあったのだ。  笑いごとではありませんよ、とホームズさんは、さらに顔をしかめる。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5438人が本棚に入れています
本棚に追加