5438人が本棚に入れています
本棚に追加
「ああ、もう、写真のモデルはお願いしないから、安心して」
「そうですか? 本当ですか?」
「本当よ」
断言した彼女に、ホームズさんも安心したのか表情を緩ませる。
「コーヒーを淹れますので、どうぞ、お掛けください」
そう言ってホームズさんは給湯室に入っていった。
相笠先生は椅子に腰を下ろしてから、私の方を見た。
「葵さん、お久しぶり」
「お久しぶりです。先生の作品、読んでますよ」
「ありがとう」
彼女は、吉田山荘・真古館での過酷な経験を基にした作品を書き上げ、それは大ヒットした。
その後の活躍も目覚ましい。
「歴史ファンタジー作品も大好きで、完結してしまって寂しかったです」
「歴史ファンタジーって、シリーズにできないのが難点なのよね」
「ああ、そういえば、ファンタジーとはいえ、史実を基にしていましたし、主人公の目的が達したら、それで完結ですもんね」
「そうなのよ」
「それじゃあ、今度はシリーズものを?」
「ええ、考えているんだけど……」
と、彼女と他愛もない話をしていると、「お待たせしました」とホームズさんが給湯室から現われて、カウンターの上に三客のコーヒーカップを置いた。
せっかくの機会だからなのだろうか、カップ&ソーサーはすべて香蘭社のものだった。
最初のコメントを投稿しよう!