第二章 劇中劇の悲劇

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「ああ、もう、写真のモデルはお願いしないから、安心して」 「そうですか? 本当ですか?」 「本当よ」  断言した彼女に、ホームズさんも安心したのか表情を緩ませる。 「コーヒーを淹れますので、どうぞ、お掛けください」  そう言ってホームズさんは給湯室に入っていった。  相笠先生は椅子に腰を下ろしてから、私の方を見た。 「葵さん、お久しぶり」 「お久しぶりです。先生の作品、読んでますよ」 「ありがとう」  彼女は、吉田山荘・真古館での過酷な経験を基にした作品を書き上げ、それは大ヒットした。  その後の活躍も目覚ましい。 「歴史ファンタジー作品も大好きで、完結してしまって寂しかったです」 「歴史ファンタジーって、シリーズにできないのが難点なのよね」 「ああ、そういえば、ファンタジーとはいえ、史実を基にしていましたし、主人公の目的が達したら、それで完結ですもんね」 「そうなのよ」 「それじゃあ、今度はシリーズものを?」 「ええ、考えているんだけど……」  と、彼女と他愛もない話をしていると、「お待たせしました」とホームズさんが給湯室から現われて、カウンターの上に三客のコーヒーカップを置いた。  せっかくの機会だからなのだろうか、カップ&ソーサーはすべて香蘭社のものだった。
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