5438人が本棚に入れています
本棚に追加
相笠先生の前に置いたのは、中でも最も華やかな、金彩が眩しい逸品だ。
「絢爛豪華な和洋折衷、素敵ね……」
「香蘭社の『染錦間取金彩松竹梅』です」
と、ホームズさんは説明をする。
一緒に出したお菓子は、バームクーヘンだった。
以前、ホームズさんに聞いた話だが、ドイツのお菓子であるバームクーヘンは大正時代に日本に伝わって来たということだった。『大正ロマン』の展示にピッタリだと思い、用意していたのだ。
また、チョコレートやキャラメルも同じ頃らしい。
「せっかくですから、葵さんも座って休憩しませんか?」
ホームズさんの申し出に、私は失礼します、と遠慮がちに相笠先生の隣に座る。
相笠先生は、どうも、とカップを口に運び、目を細めた。
「相変わらず、ここのコーヒー、美味しいわ。素敵なカップだから余計に」
ありがとうございます、とホームズさんは笑みを返す。
私もコーヒーを一口飲んでから、彼女の横顔に目を向けた。
「それで相笠先生、ホームズさんにお願いがあったんですか?」
私が問うと、彼女は「そうなの」とカウンターの上で手を組み合わせる。
「あの事件の後、私は『事実を基にした作品』を書くのに向いていると思ったの」
私とホームズさんは、そういえば、と頷く。
さっき話していた歴史ファンタジーしかり、今の彼女は実際にあった事柄や事件をモチーフに作品を書いている。
大きく脚色もしているため、史実とはまた別の印象になるのが、魅力でもあった。
「何より私、実在の人物をモデルにした方が、書きやすいことにも気が付いたの。それで今、新作を書いているんだけど……」
そこまで言って彼女は、しっかりとホームズさんの目を見詰める。
「清貴さん、あなたをモデルにした作品を書かせてもらいたいの」
えっ、とホームズさんは目を瞬かせた。
最初のコメントを投稿しよう!