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序 章
昭和十二年。
梶原秋人は、哲学の道を目指して東の方角へと息を切らして走っていた。
その出で立ちは、着物に袴、そして学帽と、どこから見ても書生だが、実は落ちこぼれの烙印を捺されている。ついでにおっちょこちょいの烙印もだ。
だが彼は、容姿は端麗だ。西洋人を思わせる明るめの髪色に華やかな顔立ちは、数多の欠点を補うほどだった。
哲学の道に入り、今度は北へと曲がると、石造りの洋館が見えてくる。
玄関の扉が開放されていて、使用人たちが玄関を掃き、窓を拭き、庭を整えと、今日も屋敷を磨いていた。
ちわーっす、と秋人は駆け足のまま、顔見知りの使用人たちに手を上げて、門をくぐり、そのまま玄関に入る。
この屋敷は、一階部分は靴のまま入る、西洋仕様だ。
奥の書斎からクラシック音楽が流れてきている。
この屋敷の者が、聴いているのだろう。
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