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「ホームズ、見たか?」
書斎に飛び込むと、一人掛けソファーでくつろいでいた青年は、ええ、と頷く。
艶やかな黒髪に真っ白い肌の、眉目秀麗な美青年だ。彼の手には、平凡社の『世界探偵小説全集』があった。
「ようやく僕も手に入れましたよ。江戸川乱歩が担当した『シャーロック・ホームズの冒険』の初版です。素晴らしいですね」
「本のことじゃねぇよ」
「分かっていますよ。今日は久々の休日で心地よい天気です。この書斎でクラシックを聴きながら、ゆったり読書を愉しむつもりだったのですが……」
彼はそこまで言って、じろりと横目で秋人を睨む。
「いざ読み始めようという時に、邪魔が入りましたね」
「わ、悪い。でも、『冒険』はもう読んでるんだろ?」
「前に読んだのは、第二刷です」
「内容は同じだろうよ、ホームズ」
「僕を『ホームズ』と呼ぶのは、やめていただけませんか?」
「はーい、家頭清貴さん」
秋人は、棒読み口調で答えて、頭の後ろに手を組む。
彼の名前は、家頭清貴。
家に頭、そしてシャーロック・ホームズのように鋭い観察眼を持つことから『ホームズ』という愛称がついた。
彼はシャーロック・ホームズを愛読しており、自分のことを『ホームズ』と呼ぶのをやめるよう言いながらも、満更でもなさそうだ。
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