序 章

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「大体、久々の休日ってなんだよ。お前はいつも、ゆったり過ごしてるじゃねぇか」  家頭清貴は大きな屋敷に住み、貴族然とした佇まいだが、元華族というわけではない。  だが、富豪ではある。  彼の家は、江戸時代から続く豪商なのだ。 「こう見えても、いろいろ仕事はあるんですよ。あなたのお兄様に呼び出されることもありますしね」 「この前も捜査に協力してくれたって話だよな。兄貴も喜んでいたよ。サンキュー」  秋人の兄、冬樹は警察官で、捜査に行き詰まると、頭脳明晰で優れた洞察力を持つ清貴に協力を要請することがある。 「それで、今日はなんでしょうか? そんなに息を切らして、僕の許に駆け付けたということは、また何かゴシップ的な事件があったのですか?」  清貴は読書を諦めたようで、本をデスクの上に置く。 「そうなんだよ。事件なんだ。お前の耳には届いてないか?」  前のめりになる秋人に、清貴は、さあ、と肩をすくめる。 「この前、大阪港に水死体が上がったって、ニュースがあっただろ?」  そのニュースは、記憶に新しい。  発見時、遺体は腐っていて身元が分からなかったのだが、身なりの良い服装をしていたという話だ。 「あれは、花屋敷家の当主だったんだよ」  秋人は手にしていた新聞を見せる。  清貴は動きを止めた。 「花屋敷家というと、あの?」 「ああ、『華麗なる花屋敷家』だよ」  京都市北部、金閣寺近くに邸を構える大富豪『花屋敷家』。  大正時代に興した事業が大成功し、京都に移り住んできた成金一家でもある。
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