第一幕 最初の事件

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       1 「俺は、実は役者になりたいんだよ。勉強は苦手だけど、役者の才能はあると思うんだ」  それから、約二か月。  花屋敷家の噂が、少し落ち着いた頃だ。  その日も清貴の書斎を訪れていた秋人は、自分の才能について力説していた。 「で、何が言いたいのですか?」  机で仕事をしている清貴は、秋人に一瞥もくれずに書類に目を向けたまま訊ねる。 「親父も兄貴も大反対なんだ。『どうせ、勉強が嫌で言ってるんだろう』って」 「そうでしょうね。僕もそう思います」 「いやいや、そう言わずに、お前からも親父と兄貴を説得してくれよ」 「芸事の世界は、あなたが想像するよりも厳しいものです。本気でなりたいなら親の反対を押し切って家を飛び出して、尊敬する役者の許に弟子入りすることですね。それができないのでしたら、その程度のものだということですよ」  さらりと言う清貴に、秋人は、ぐぐっ、と言葉を詰まらせる。  その時、ジリリン、と部屋に電話の音が響いた。  清貴は、サッとデスクの上のハンドセット型の電話機の受話器を取る。 「はい、家頭です」  交換手が相手とつないだ瞬間、清貴は、おや、という様子を見せた。 「――これは、冬樹さん、いつもお世話になっております。……ええ、分かりました。今から伺います。そうそう、ちょうど、秋人さんもここに。……えっ? 連れてこなくても良い? 分かりました。では、後ほど」  清貴が受話器を置くなり、秋人は前のめりになった。 「今の兄貴から?」 「ええ、そうです。ちょっと呼ばれたので、これから行ってきます」 「俺も行く!」 「いえ、『秋人は連れてこなくて良い』と」  清貴は立ち上がり、薄手の黒いインバネス・コートを羽織る。 「いや、絶対、俺も行くからな」  秋人はしっかりと、清貴のコートをつかんだ。
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