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ふと、円生が描いた絵を思い出す。
本当に素晴らしい作品だったのだ。
「いやぁ、でも、ジウ氏に絵を売らなかったなんてもったいないよな」
小松がしみじみとつぶやくと、清貴は、そうですか? と首を傾げた。
「僕は、売らなくて良かったと思っていますが」
はっ? と、小松は目を見開く。
「どうしてだよ? ジウ氏に売ったら、いくらになったと思うんだ?」
「そうですね。以前ジウ氏は、気に入った絵画を六億で買い取ってましたので、もしかしたら、そのくらいか、それ以上になったのではないでしょうか」
そうだよな、と小松は首を縦に振る。
「その大金、もったいなさすぎだろ」
清貴は手を組んで、そっと目を伏せた。
「『大金』だから、ですよ」
「どういうことだ?」
「あの作品はある意味、『円生』としての初めての作品。いわば一作目です。それでそんな大金が入ったら、円生はもう満足して、絵を描くのをやめてしまう可能性だってあります。僕にとっては、それこそ、もったいない話です」
強い口調で言い切った清貴に、小松は、うーん、と唸った。
「そういうもんかねぇ」
清貴の言うことは分からなくもないが、理解はできない。
やはり自分は、どこまでも俗っぽい凡人なのだ。
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