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――そんな話をしている間に、車は花屋敷家の門前に着いていた。
門は開放されていて、家頭家の運転手は、花屋敷家の使用人の誘導に従い、車を駐車場に停めてから、丁寧にドアを開ける。
秋人は車を降りて邸を仰ぎ、あんぐりと口を開ける。
まるで西洋の城を思わせる、レンガと石造りの大きな洋館だった。
『花屋敷』という名を意識しているのか、庭園はまるで植物園のように色とりどりの花が咲き誇っている。
「す、すげぇ。にしても、どっかで見たことがあるような洋館だなぁ」
「この屋敷は、円山公園にある『長楽館』に負けない洋館にしたかったようで、少し似ていますよね」
「『長楽館』っていうと、煙草王の?」
「ええ、村井吉兵衛です。元々、貧しい家の出身で、やがて財閥と呼ばれるほどにまでなりました。故・花屋敷一郎もそうですね。きっと、花屋敷氏は村井氏をライバル視していたのかもしれません」
「花屋敷一郎……あの悪名高き、成金なぁ」
秋人は、ははっ、と笑って腰に手を当てた。
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