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「ところで、僕が呼ばれたわけというのは……?」
清貴は、押し問答している時間がもったいないと思ったのか、すぐに本題に入った。
冬樹は、そうそう、と我に返る。
「清貴君、君は、花屋敷家の長女――薔子さんと知り合いのようだね。親しかったんだ?」
「知り合いですが、親しいというほどでは……。一年くらい前に、この家で開かれたパーティに祖父と一緒に参加して、挨拶をさせてもらった程度ですよ」
そうなのか、と冬樹は腰に手を当てる。
「どうかしたのかよ、兄貴」
「この屋敷でトラブルが起こったんだが、薔子さんは、君が『ホームズ』と異名をとる切れ者だと知っていてね。警察は当てにならないと思ったのか、ぜひ君を呼んでほしいと」
清貴は、彼女にそんなふうに信頼される覚えはないのですが……、と小首を傾げるも、
「一市民として警察のお役に立てるんでしたら、喜んで協力させていただきますよ」
すぐに胸に手を当てて、この上なく善良な笑みを見せる。
そんな清貴の笑顔に、冬樹は感動している様子だった。一方の秋人は、寒気を覚えて自分の体を抱き締める。
「それじゃあ、とりあえず、応接室に来てほしい。そうだ、秋人、お前は花屋敷家の人たちに『出て行け』と言われた場合は、即座に従うようにな」
強い口調で言う冬樹に、秋人は「へー」と気のない返事をした。
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