第一幕 最初の事件

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      2  冬樹の案内で、清貴と秋人は、花屋敷邸の中へと入った。  通された応接室は、カーテンと絨毯は臙脂色で、ソファーは栗皮色の革張り。天井にはクリスタルのシャンデリアがきらめき、壁には絵画と鹿の頭の剥製――ハンティング・トロフィー――が飾られている。  応接室には誰もいない。  ひゅう、と秋人は無遠慮に口笛を吹いて、清貴に視線を送った。 「豪華な応接室だけど、ホームズん家も似たようなものだな」 「応接室は、どこもそんなに変わらないでしょう。ところで、花屋敷家の方々は――?」  花屋敷邸の玄関を入り、ここに来るまで、ひと気がなかったのだ。  清貴は、不思議そうに周囲を見回して、窓の外に目を向ける。 「今、警察と話してる。まだ時間はかかるだろうし、花屋敷家の人間が来るまで、事件の概要を伝えたいと思う」  冬樹はそう言って、清貴と秋人にソファーに座るよう、手で促した。  二人は会釈をしながら、腰を下ろす。 「まず、花屋敷家の複雑な家族構成から伝えなくてはならない」  冬樹もソファーに腰を下ろして、そう切り出した。 「複雑な家族構成って、あれだろ。たしか、大家族なんだよな?」  ああ、と冬樹は頷く。 「まず、最初に言っておく。ここに住んでいる花屋敷一族は、九人だ」  そんなもんなんだ、と秋人は拍子抜けしたように言う。  昭和のこの時代、九人家族は驚くほど多いわけではない。
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