5437人が本棚に入れています
本棚に追加
秋人は、まーなー、と声を上げる。
「花屋敷家の主役は、常に妻の華子って感じだもんな。今でこそ六十代の派手なばーさんだけど、若い頃は相当、美人だったって話だし」
ああ、と冬樹は答えた。
「花屋敷華子の母は祇園で評判の美しい芸妓だったそうだ。
一代で財を築いた花屋敷一郎が見初めて、金にものを言わせて結婚をしている。だが、その母は体が弱く、華子が八つの時に病気で他界している。
一郎は、大層嘆いて、残された一人娘の華子を溺愛し、甘やかしたそうだ。華子は、見事に母親の美貌を受け継いで、美しく育った。
若い頃の彼女は『社交界の華』と謳われ、まさに手に入らない物はない無敵状態だったとか」
冬樹の言葉に、秋人は、うんうん、と首を縦に振る。
「その頃の栄光をまだ引きずってるのか、今もめちゃくちゃ派手な格好してるよな。胸元がぱっくり開いた派手なドレスで」
「秋人、声を抑えろ。ここは、花屋敷邸だぞ」
ぴしゃりと言った冬樹に、秋人は慌てて口に手を当てる。
すると清貴は、ふふっ、と笑う。
「まぁ、僕は年齢や外見はさておき、本人が好きなファッションに身を包むのが一番だと思いますがね」
「おっ、それは、定番の『京男の嫌味』なのか?」
「定番ってなんですか、失礼な。違いますよ、本心です。僕自身もそうしていますし」
と、清貴は肩をすくめる。
最初のコメントを投稿しよう!