第一幕 最初の事件

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 冬樹が、話を戻すな、と手をかざす。 「花屋敷の子どもたちの話をしよう」 「長女、次女、末に長男で、その上に異父姉でしたね」  四本指を出す清貴に、そうだ、と冬樹は頷いた。 「さっきも言った通り姉弟の中で結婚しているのは、後継ぎである末の長男だけだ。 長男の名前は、菊男、三十歳。彼の妻の名は、正子。 夫婦の間は息子が二人、十一歳の菊正と、四歳の菊次郎がいる」  冬樹は一拍おいて、話を続ける。 「姉たちは、みんな、花にまつわる名前だ。  長女は、薔子(しょうこ)。三十二歳。独身でバイオリニストだ。  次女は、蘭子(らんこ)。三十一歳。こちらも独身で、オペラ歌手だ。  そして、彼らの上に異父姉の百合子。  彼女は三十六歳で、目が見えず、耳も聞こえず、そして話すこともできない、不幸な女性だ」  その言葉を受けて、清貴は、そっと眉を顰める。 「目と耳が不自由なのですから、不便は多いかもしれませんが、それを『不幸』と決めつけるのはどうなんでしょう?」  そう突っ込まれて、冬樹は一瞬、何を言っているのか分からない、という顔をしたが、そんなことを議論している時間がもったいないと思ったのか、それは失礼、と会釈をして話を続けた。 「――と、まあ、これが花屋敷家の九人……いや、八人家族だ。もちろん、ここには住み込みの使用人もいるし、主治医もよく出入りしている」 「ちょっと待ってくれよ。分かっていたつもりでも、人数が多くて混乱してきた」  と、秋人は胸元から冊子と筆を取り出して、さらさらと花屋敷一族の名を書いていく。
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