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「よし、これでなんとか。あっ、義春はもういないんだよな」
秋人はそう言って、義春のところにバツ印をつける。
「花屋敷家の家族構成が頭に入ったところで、先週、起こった事件の話をしよう」
そう切り出した冬樹に、清貴は確認するように視線を合わせる。
「先週ですか?」
ああ、と冬樹は頷く。
「事の起こりは、一週間前の金曜日の午後。発端は百合子さんだ」
「百合子さん……目と耳が不自由な異父姉さんだな」
と、秋人は自ら書いた家族名簿を確認する。
「彼女は毎日、午後三時にミルクティーと焼き菓子を口にするそうだ。それは彼女にとって一日も欠かすことがない習慣だったとか」
「午後のティータイムですね」
清貴は、にこりと微笑む。
「そうだな。そのミルクティーは、いつも使用人が淹れて、食堂のダイニングテーブルの端の席に置いておく。百合子さんは目と耳が不自由だが、この屋敷内であれば自由に動き回れるそうで、自分一人でキッチンに行き、そこでミルクティーと焼き菓子を口にして、一息ついてから、再び部屋に戻るという話だ」
どことなくその光景が、清貴と秋人の脳裏に浮かんだ。
杖を手にゆっくりと屋敷の中を歩き、ダイニングテーブルまで来て、美味しいミルクティーと焼き菓子を口に運ぶ。
それは、百合子にとって、至福の時に違いない。
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