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「だが、その日に限っては違っていた。百合子さんが食堂に現われた時、どこからともなく菊男の長男、十一歳の菊正がやってきて、『俺がもーらい』と、そのミルクティーのカップを口に運んだそうだ。ここまでは、やんちゃ坊主のいたずらだな。秋人の小さい時のようなものだ」  そう言う冬樹に、清貴は、ふむ、と相槌をうち、秋人はばつが悪そうに頭を掻く。 「だが、次の瞬間、菊正は白目を剥いて倒れた。口からは泡を吹きだして」  その言葉に、清貴と秋人は顔色を変えた。 「菊正は大変なやんちゃ者で、信じられないことにポケットの中にドブネズミを入れていたんだよ。倒れた瞬間、ポケットにいたドブネズミが飛び出して、そのまま零れたミルクティーを飲んだそうだ。次の瞬間には、ころりと死んでしまったとか」 「……毒が入っていたんですね」 「ああ、後で調べたところ、ストリキニーネと分かった」 「猛毒ではないですか! で、菊正君は?」 「屋敷内に主治医がいて、すぐに吐かせて処置したとか。口にしたのもほんの少量で大事に至らなかったんだ」  清貴と秋人は、ホッと胸を撫でおろす。 「その後、自分たち警官がこの屋敷に駆け付けたんだが、もう大騒ぎだったよ……」  その時のことを思い出したのか、冬樹はうんざりした様子を見せる。 「詳しく聞かせてください」  少し前のめりになった清貴に、冬樹は「もちろん」と頷いた。
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