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『痛い、母さん、悪かったよ』 『何が悪かったってんだ。反省なんてしてないだろうさ』  折檻を続ける華子に、警察官たちは呆然とし、 『は、花屋敷夫人、おやめください』  冬樹は慌てて止めに入った。 『おばあちゃん……』  その時、十一歳の少年が、食堂に姿を現わした。  この少年が、うっかり毒を口にしてしまった菊正だった。早めの処置が功を奏したようで、よろよろとだがもう歩けている。とはいえ、顔色はとても悪かった。  菊正の背後に、母親の正子の姿も見えた。彼女は、菊正以上に青褪めた顔をしている。 『菊正っ』  華子は食堂に入ってきた菊正の姿を見るなり、手にしていた杖を投げ出して、孫の許に駆け寄った。『無事で良かった』と泣きながら孫を抱擁するに違いない。誰もがそう思っただろうが、そうではなかった。  華子は大きく手を振り上げたかと思うと、そのままの勢いで菊正の頬を平手打ちしたのだ。ぱんっ、と大きな音が響く。 『この、くそがき、菊正っ! 伯母様のお菓子やお茶を勝手に口にしたら駄目だと何回言ったら分かるんだい⁉ あんたは、どこまでいやしくて、頭が悪い子なんだ!』  菊正は頬に手を当てて、うわーっ! と甲高い声で泣き声を上げた。  正子がすかさず息子の体を抱き寄せる。 『お義母様、やめてください。菊正はさっきまで寝込んでいて、今ようやく……』 『なんだい、自業自得じゃないか。そもそも、あんたが、息子を甘やかしすぎているんだよ!』  華子が怒鳴りつけていると、 『あら、そうは言うけど、お母様』  と食堂に真っ赤なワンピースを纏った若い女性が姿を現した。 『菊正のおかげでお母様のだーい好きな百合子姉さんの命が助かったんだもの、良かったじゃない』 『……蘭子』  次女の蘭子だった。彼女は、赤いワンピースに負けない、目鼻立ちのはっきりした華やかな顔立ちをしている。
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