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 華子は、ふん、と鼻を鳴らして、再び百合子の許に歩み寄り、ぎゅっと抱き締めた。 『――そうさ。問題はこの可愛い百合子に誰かが毒を盛ったってことだよ。この家の誰かが、百合子を殺そうとしたんだ。私は知ってるんだよ。この家にいる誰も彼も、百合子を疎ましく思っているんだ』  そう言って恨みがましく、家族を睨みつけた。  目も耳も不自由な百合子は、母の腕の中でただぼんやりしているだけだ。  菊男は母の言葉に心当たりがあるのか、ぐっ、と言葉を詰まらせ、一方の蘭子は指先で髪を後ろに跳ねさせながら、鼻で嗤った。 『そりゃそうよ。百合子姉さんは、みんなのお荷物じゃない。そのくせ、お母様は百合子姉さんにべったり。私、知ってるんだから。お母様は、自分の財産のほとんどを百合子姉さんに相続させるつもりでしょう?』  その言葉に菊男は、なっ、と目を剥いた。 『本当ですか、母さん。百合子姉さんは金の価値も使い方も分かってないのに! 何より、この家の後継ぎは俺ですよ?』 『だからだよ! 百合子に相続させないと、私が死んだ後、百合子はどうなってしまうんだい? この子にお金を残してあげないと!』 『お母様がそんな調子だから、百合子姉さんに毒を盛りたくもなるのよ!』 『それじゃあ、あんたの仕業だっていうのかい?』 『盛りたくもなるって言っただけで、毒なんて盛ってないわ。実際、私よりも菊男の方が切実じゃないかしら? 後継ぎですもんねぇ』  蘭子はそう言って腕を組み、弟に視線を送る。 『俺は毒なんて盛らないし、もし毒を盛ったとしたら、絶対に息子を食堂に近付けたりはしない!』 『それじゃあ、誰だと言うんだい!』  華子の金切り声が、食堂に響いた。
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