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清貴は、なるほど、と頷く。
「ではその間、休暇をいただいても良いでしょうか? 僕も『蔵』の仕事をしたいと思いまして。もちろん緊急の依頼が入った際は、駆け付けますので」
「そうしてもらえると、俺もありがたい。しかし事務所を移転するんじゃないかと思っていたとはな」
小松は腕を組んで、小さく笑う。
「さっきも言いましたが、小松さんはよく、『家賃が高い』と洩らしていましたし」
そうなんだよ、と小松は息を吐き出した。
「まぁ、移転は常に検討しているのはたしかだな。でも、せっかくだからもう少し頑張りたいし、円生が下宿してくれるのは、ありがたいよ」
それは良かった、と清貴は微笑む。
「二階は円生のアトリエになりますね」
「ああ、そうなるんだろうな」
「悔しいですが、僕は彼の作品のファンなので、今後、この上で新たな作品が生み出されることが楽しみでなりませんね」
清貴は嬉しそうに、天井を見上げる。
小松もつられて、顔を上げた。
たしかに、うちの事務所の二階が、有名画家のアトリエになって、傑作が生み出されていくのは、喜ばしいことだ。
小松は、うんうん、と頷いて清貴を見た。
――だが、二人の想いとは裏腹に、円生は一向に筆を取ろうとはしなかった。
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