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「兄貴は『全員、アリバイがない』って言ってたけど、長女の薔子さんにはアリバイがあるよな? 部屋でバイオリンを弾いていて、その音を聴いている人がいるんだからよ」
そうは言いましても、と清貴が応接室にある蓄音機に目を向けた。
「音だけでしたら、レコードという手がありますのでね」
「あ、そっか」
「ちなみに、使用されたストリキニーネは、どこで手に入れたものなんでしょう?」
清貴の問いに、冬樹は顔を曇らせる。
「この家にあったものではないかと思われる」
曖昧な言い回しに、清貴と秋人は思わず顔を見合わせた。
「確定ではないんですか?」
「ああ。二か月前に海に身投げをして亡くなった当主・義春は、元々化学者だったろう? 彼は結婚後もこの家に研究室を作り、そこに籠って、さまざまな実験を行っていて、棚には、毒物が入った瓶もあったんだ」
なら決まりじゃん、と秋人は小首を傾げる。
「どうして確定じゃないんだ?」
「義春氏が行方不明になった時、華子夫人は研究室にしっかりと鍵をかけて、『誰も入らないように』と家族に命令をしたそうなんだ。鍵は今も老婦人が持ったまま、開かずの間になっている。
入口はたった一つで、鍵も一つしかなく、窓には鉄格子がついている。自分も鍵がない状態で侵入を試みたんだが、どうやっても無理だった」
本当にいろいろと試したのだろう、冬樹は脱力したように言う。
まあ、と清貴は腕を組んだ。
「その部屋を見ていないので、よく分かりませんが、本当に侵入不可能だとして可能性としてあるのは、義春さんが失踪する前、研究室に自由に出入りできていた頃に薬をくすねて確保していた。または蝋で鍵型を取り合鍵を作った。はたまた毒薬は別のところから入手した――といったところでしょうか」
腕を組んで話す清貴に、秋人は、ちっちっと人差し指を振る。
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