第二幕 第二の事件

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        1 「まぁ、なんだな。花屋敷家は……趣味はいいよな」  長い廊下を歩きながら、秋人が独り言のように囁く。  半歩前を歩く冬樹が、家の誰かに聞かれたらどうするんだ、と秋人を横目で睨んだ。  秋人の口から『趣味はいい』と自然に出るほどに、花屋敷邸は美しかった。 「ええ、この屋敷は、英国様式をとても意識しているようですね」 「ふーん、英国様式ねぇ。イギリスのマークとかついてないけどな」  秋人はよく分かっていない様子でつぶやく。 「英国様式建築は、元々、聖堂教会のデザインから始まったようです。いわゆる十二世紀頃から始まった『ゴシック様式』ですね」 「教会か、たしかにそれっぽい。それじゃあ、この屋敷は『ゴシック様式』なんだな?」 「いえ、十五世紀末から誕生した『チューダー様式』のようですね」  そう話す清貴に、ちゅーだー? と秋人はタコのような口で首を傾げる。 「当時の王、ヘンリー・チューダーの名前から付けられたんですよ。薔薇のローレリーフなどもチューダー様式の特徴ですね。この薔薇も、かの薔薇戦争後、ヘンリー七世がランカスター家とヨーク家の紅白の薔薇の徽章を統合させたもので……」 「え、『薔薇戦争』って、なんだそれ」  露骨に驚く秋人に、冬樹は額に手を当てる。 「お前は一応、学生だろう。一体、何を学んでいるんだ」 「薔薇戦争以外のことかな」  秋人はしれっと答え、冬樹は「馬鹿者」と息をついた。
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