第二幕 第二の事件

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 薔薇戦争とは、と清貴が説明する。 「十五世紀に起こったランカスター家とヨーク家という大貴族同士の内乱ですよ。ランカスター家の徽章が赤い薔薇で、ヨーク家の徽章が白い薔薇だったので、薔薇戦争と呼ばれていたわけです。いろいろあったのですが、結果的にそれを収めたのが、ランカスター家側のヘンリー・チューダーでした。彼はその後、二つの家の紅白の薔薇を一つにした紋様をチューダー家の家紋としたんです。それを『チューダー・ローズ』と呼ぶんです」  秋人は、へえええ、と目を輝かせる。 「な、なぁ、その『いろいろあった』って何があったんだ?」 「それは、たくさんのドラマがありましたよ。今度、本をお貸ししましょう」  うんうん、と頷く秋人の様子を見ながら、冬樹はぽかんと口を開けていた。 「冬樹さん、どうかしましたか?」 「……いや。君は家庭教師の才能もありそうだ」  いえいえ、そんな、と清貴は微笑む。 「この家を建てた花屋敷一郎は、チューダー様式が好きだったのかね」  秋人は歩きながら建物を見回し、しみじみと言う。  そうでしょうね、と清貴は口角を上げた。 「この屋敷を見ていると、美しいものと貴族への憧れと執着を感じますね」 「……執着か。成り上がるのに、手段を選ばなかったって話だもんな」  ぽつりと零した秋人に、冬樹はぎょっとして口の前に人差し指を立てる。 「そんなの今さらの話じゃん」  秋人の言葉通り、花屋敷一郎の悪しき評判は、誰もが知るところだ。  一郎は、立場の弱い者を奴隷のように扱い、財を成していった。  彼に騙され、裏切られ、骨の髄までしゃぶりつくされたと訴える者は少なくない。  特に目を覆いたくなるのは、一郎の暴力的な面だ。  天性のサディストと言えるのかもしれない。  貧しい者を金で買い、殴る蹴るの暴行を加えていた。それだけでは飽き足らず、『金を払えば、こいつを好きなだけ殴っても良い』という商売をやっていたという噂もあった。  一人娘である華子にも、そうした暴力性は受け継がれていた。
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