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薔薇戦争とは、と清貴が説明する。
「十五世紀に起こったランカスター家とヨーク家という大貴族同士の内乱ですよ。ランカスター家の徽章が赤い薔薇で、ヨーク家の徽章が白い薔薇だったので、薔薇戦争と呼ばれていたわけです。いろいろあったのですが、結果的にそれを収めたのが、ランカスター家側のヘンリー・チューダーでした。彼はその後、二つの家の紅白の薔薇を一つにした紋様をチューダー家の家紋としたんです。それを『チューダー・ローズ』と呼ぶんです」
秋人は、へえええ、と目を輝かせる。
「な、なぁ、その『いろいろあった』って何があったんだ?」
「それは、たくさんのドラマがありましたよ。今度、本をお貸ししましょう」
うんうん、と頷く秋人の様子を見ながら、冬樹はぽかんと口を開けていた。
「冬樹さん、どうかしましたか?」
「……いや。君は家庭教師の才能もありそうだ」
いえいえ、そんな、と清貴は微笑む。
「この家を建てた花屋敷一郎は、チューダー様式が好きだったのかね」
秋人は歩きながら建物を見回し、しみじみと言う。
そうでしょうね、と清貴は口角を上げた。
「この屋敷を見ていると、美しいものと貴族への憧れと執着を感じますね」
「……執着か。成り上がるのに、手段を選ばなかったって話だもんな」
ぽつりと零した秋人に、冬樹はぎょっとして口の前に人差し指を立てる。
「そんなの今さらの話じゃん」
秋人の言葉通り、花屋敷一郎の悪しき評判は、誰もが知るところだ。
一郎は、立場の弱い者を奴隷のように扱い、財を成していった。
彼に騙され、裏切られ、骨の髄までしゃぶりつくされたと訴える者は少なくない。
特に目を覆いたくなるのは、一郎の暴力的な面だ。
天性のサディストと言えるのかもしれない。
貧しい者を金で買い、殴る蹴るの暴行を加えていた。それだけでは飽き足らず、『金を払えば、こいつを好きなだけ殴っても良い』という商売をやっていたという噂もあった。
一人娘である華子にも、そうした暴力性は受け継がれていた。
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