第二幕 第二の事件

4/31
前へ
/233ページ
次へ
 それは、華子がまだ若かりし日。  ある男が、パーティの席で華子を見て『派手な女』と小馬鹿にしたように囁いた。それを聞いた華子は激怒し、使用人に馬用の鞭を持ってくるように言い、男を叩きつけて、土下座させたという話がある。  そうした素養は、華子の息子――つまり一郎の孫にあたる菊男にも影響が及んでいるようで、彼は何度も暴力事件を起こし、その度に金で解決していた。  救いは、華子の娘たちに暴力的な気質がなかったことだ。  しかし、暴力的ではないが、次女の蘭子の評判は良くなかった。  彼女はアルコールが入ると発情期の獣のようになる。夜会に参加しては気に入った男をつかまえて、すぐに男女の関係になるのだ。  厄介なのは、気に入った相手であれば見境がなくなり、相手が既婚者でもお構いなしというところだった。  蘭子は、自分がなかなか結婚できないのは家族のせいだ、と不満を口にしていたが、実際のところ、男癖の悪さが災いしているのを本人は気付いていない。 「……思えば、長女の薔子さんの悪い噂は聞かないよな」  ぽつりと零した秋人に、冬樹は「ああ」と頷く。  長女の薔子はとても聡明で優しく、才能豊かなバイオリニストとして知られている。 「彼女だけは、優しく思慮深い素晴らしい女性だよ。それにとても美しい……」  冬樹は、薔子に思い入れがあるのか、熱っぽくつぶやいた。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5436人が本棚に入れています
本棚に追加