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それは、華子がまだ若かりし日。
ある男が、パーティの席で華子を見て『派手な女』と小馬鹿にしたように囁いた。それを聞いた華子は激怒し、使用人に馬用の鞭を持ってくるように言い、男を叩きつけて、土下座させたという話がある。
そうした素養は、華子の息子――つまり一郎の孫にあたる菊男にも影響が及んでいるようで、彼は何度も暴力事件を起こし、その度に金で解決していた。
救いは、華子の娘たちに暴力的な気質がなかったことだ。
しかし、暴力的ではないが、次女の蘭子の評判は良くなかった。
彼女はアルコールが入ると発情期の獣のようになる。夜会に参加しては気に入った男をつかまえて、すぐに男女の関係になるのだ。
厄介なのは、気に入った相手であれば見境がなくなり、相手が既婚者でもお構いなしというところだった。
蘭子は、自分がなかなか結婚できないのは家族のせいだ、と不満を口にしていたが、実際のところ、男癖の悪さが災いしているのを本人は気付いていない。
「……思えば、長女の薔子さんの悪い噂は聞かないよな」
ぽつりと零した秋人に、冬樹は「ああ」と頷く。
長女の薔子はとても聡明で優しく、才能豊かなバイオリニストとして知られている。
「彼女だけは、優しく思慮深い素晴らしい女性だよ。それにとても美しい……」
冬樹は、薔子に思い入れがあるのか、熱っぽくつぶやいた。
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