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階段を上っていると、二階の廊下の左右に扉が並んでいるのが見えてきた。
「現場は、そこの華子夫人の部屋だ。ちなみに、百合子さんも同室だ」
と、冬樹は上りきってすぐのところにあるドアを示した。
「この奥にある部屋の扉は?」
「あそこは義春氏の研究室だよ。反対隣は主に百合子さんの世話をする使用人の部屋だ。ついでに言うと、向かい側は薔子さんと蘭子さんの部屋。菊男さん一家は、反対の奥側なんだが……」
冬樹がわざわざ説明しなくても、通路の向こうから子どもたちの甲高い声が聞こえてきていた。
「お行儀良くしてちょうだいっ!」
母親の金切り声も聞こえてくる。
「正子さんの声ですね」
「ああ。彼女は、姑である華子夫人に『躾がなってない』と常日頃言われていて、ピリピリしているようだ。あのやんちゃ坊主を見ていたら、『ちゃんと躾けしろ』って言いたくなる気持ちも分かるんだが……」
「『こういう場では、どのように振る舞えば良いか』という『教育』はもちろん大切ですが、子どもの場合、時に躾ではどうにもならない、生まれ持った本人の素質はありますからね。親ばかりを責めるのは酷というものでしょう」
そうかな、と冬樹は不服そうに洩らす。
彼は、子どもは躾次第で変わると信じているようだった。
「現に冬樹さんと秋人さんは、同じご両親に育てられ血を分けた兄弟ですが、まるで違っていますし」
清貴の言葉に、冬樹と秋人は思わず顔を見合わせ、たしかに、と苦笑した。
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