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その時、長女の部屋のドアが開き、部屋の主である薔子が姿を現わした。
「あっ、清貴さん」
「薔子さん、お久しぶりです」
清貴は胸に手を当てて、一礼をする。
「突然、お呼び立てしてしまってごめんなさい」
薔子は申し訳なさそうに言って、絹糸のようなさらさらの長い髪を耳にかけた。
卵型の輪郭の中に形の良い目鼻が配置された、品の良い白薔薇のように美しい女性だ。
秋人は、美人だなぁ、と洩らし、その横で冬樹が真っ赤な顔で「失礼だぞ」と窘める。
「頼ってくださって光栄ですよ。ですが、どうして僕を?」
「前に家頭のおじ様……誠司さんが、『困ったことがあったら、なんでも孫に相談してほしい』と仰ってくださって。なんでも、『京都のホームズ』と呼ばれているとか。私も、シャーロック・ホームズが大好きで」
薔子は熱っぽい眼差しを、清貴に向ける。
清貴はほんの少しこめかみを引きつらせたが、すぐにいつもの笑顔を見せる。
「……あらためて光栄です。それで、一体何が?」
清貴の問いに、薔子は顔を曇らせて俯く。
代わりに冬樹が答えた。
「清貴君、まずは現場を見てほしい」
華子と百合子の部屋の扉は、開いていた。
中では警察官たちが、現場を検証している。
この部屋の主である華子と百合子の姿はなかった。
「お邪魔します」
清貴は白い手袋をつけながら、部屋に一歩足を踏み入れる。
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