庶民の俺が金持ち練に編入するまで

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庶民の俺が金持ち練に編入するまで

──── 俺、桜舞鈴離(さくますずり)は学園生活において最大の危機を迎えていた。 事の初めは30分程前に届いた一通のメール。 自分の通っている学園、竜ケ崎学園(りゅうがさきがくえん)の理事長から放課後になったら理事長室まで来てくれと連絡が来ていたのだ。 うちの学園は広く、生徒数もかなり多いため連絡が行き届くように大学さながら学園直属のメールサーバーが設置してある。 入学の際に学園から一人一人に配布されるメールアドレスを使って学園の行事、先生から生徒への連絡をしているのだ。 先程も言ったように、うちの学園は広い。由緒ある学園な事もあるが、何よりも『金持ち練』と『庶民練』に別れているのだ。 あ、この金持ち練庶民練っていう呼び方は生徒が勝手につけたもので、正式な名前は『白百合練』と『桜練』と言うんだけどね。 元々金持ちだけが集う学園だったのが、数年前から庶民も受け入れるようになったのだ。時代の移り変わり、というやつだろうか? とは言っても金持ちと庶民の扱いが一緒のわけもなく、金持ちと庶民の勉強する練はハッキリと分けられ待遇も違う。 俺も見たことはあまりないが食堂にしても教室にしても、金持ち練はすごく豪華だとか。体育祭や文化祭等も分けられている。それぞれ見に行くのは自由だが、金持ちが庶民練に来ることはまず無いと言っていいだろう。 だけど、だからと言って教師が俺たちを庶民だからといって格段差別するわけでもないし、庶民練だって普通の学校に比べればすごく綺麗だと思う。関わりがないと言うだけで金持ち練のヤツらが庶民練をいじめているなんて話も聞いたことがないし…。 なので俺たち庶民は金持ち練の奴らとは関わらず、同じ学園でも面識がない状況で生きてきた訳だ。 そこに理事長から理事長室に来いと言うメール。理事長本人から生徒個人へメールが来た、なんて話聞いたことがない。俺は呼び出されるような何かをしてしまったのだろうか…?不安で押しつぶされそうになりながらも、理事長室へと向かう。 理事長は金持ち練の中にあり、金持ち練に入ったことすらない俺は緊張しながら廊下を歩いていたのだが ───。 ── …… 迷った。 だって仕方がないと思う。庶民練とはまるで広さが違うんだもん。外からみてもデカいなぁとは思っていたけれど、まさかこんな迷路のように入り組んでいるとは。 学園のホームページにある、学園内の地図を携帯で見ながら必死に理事長室を探して歩を進めていた時。 そう、迷っただけならまだよかったんだ。 それなのに、俺は角からでてきた影に思い切りぶつかってしまったのだ。
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