庶民の俺が金持ち練に編入するまで

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だが風見さんはそれをあまり気にしていない様子で、 「あぁ、お前桜練の生徒か。そういえばネクタイの色が違うな。白百合練に何か用か?」 と俺に尋ねる。 俺は風見さんが女神に見えて涙が浮かびそうだった。例えるなら、砂漠のど真ん中で水を持っている人と出会えたような感覚。 失礼なのを承知で俺は風見さんにたのみこむことにした。 「し、失礼なのは承知なのですが理事長室はどこにあるんでしょうか……。俺、理事長に呼ばれていて……」 必死に手を合わせると、風見さんは何がおかしかったのかフッと微笑んだ。 ……綺麗な顔だなぁ。 同じ男の俺からしても見とれてしまうくらい、整った顔が目の前で微笑む。 「そんなに必死にならなくても道案内くらいしてやる。俺も丁度理事長に呼ばれていてな。着いてこい」 「……風見さん!」 ぶつかったのが風見さんのような優しい人でよかった。お金持ちで顔も良くて、その上性格までいいなんて…。俺は胸を撫で下ろしながら風見さんの後について行った。 「俺の名前を知ってるのか?」 不思議そうな顔をして聞いてくる風見さんに思わず眉を顰めそうになる。…自分の美形具合を知らないのだろうか?お金持ちで美形でしかも生徒会長。知らないわけがないと俺は思うんだけどなぁ。 「だって風見さんみたいなお金持ちでかっこいい人は桜練の間でも有名で……」 「……そうなのか?お前も綺麗な顔をしているじゃないか。名前は?」 突然綺麗な顔、と言われて足が止まりかける。確かに俺もそこそこ、本当にそこそこだが綺麗な顔に産んでもらった自覚はあるが、モテたことも無いし風見さんのようなレベルの違う美形にお世辞でもそう言われると何だかいたたまれない。 「あ、えっと……俺は桜舞鈴離です。桜練1年、よろしくお願いします……」 綺麗な顔、という言葉にはあえて触れないように笑顔でそう言うと、風見さんはピクリと肩を揺らした。 「桜舞……」 何か引っかかったような顔で俺の名前を呟く風見さんに何も言えず、その後無言になってしまった風見さんの背中を見つめながら置いていかれないよう早歩きでついて行った。
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