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■憐視点
さっきまで顔を赤くしていた桜舞が、次は苦虫を噛み潰したような顔でパンを食べ始めた。
表情がコロコロ変わるヤツだな。
思わず頬が緩む。
初めて会った時、ぶつかって来た桜舞があまりにも怯えていたから何かと思ったら桜練の生徒で、手を差し出したらさっきまで怯えていたのが酷く安心した顔になった事を思い出す。
ここで生活している奴らは、本当の気持ちを表情に出さない奴が多い。上流階級で、……嫌、大人として戦うためにはそれが必要なんだ。
だから、桜舞みたいに思ったらすぐ顔に出る子と接したのは久々で、それが凄く楽しい。
事情を知って気にかけてやらないとと思って柄にもなく世話をして、でも最近は忙しくてなかなか話すら出来ていなかった。
…桜舞のそばに居ると何故か安心する。
周りからの風見財閥の跡取りという期待がずっと重たくて、いつも窮屈だった。この家に長男として生まれたからには仕方ないと常に我慢をして期待に答えようと努力してきた。
でも、桜舞なら俺が情けない姿を見せても笑って許してくれそうな気がする。
期待されるのが窮屈だと思っているのに桜舞に期待を押し付けているのが申し訳ないが…。
桜舞の口元についていたパンのくずを指で取ると、桜舞がまた真っ赤になってオロオロしている。
……可愛い。
最初に見た時は綺麗だ、と思ったけど、顔を赤くしている桜舞は可愛いと思う。周りの生徒たちが騒ぐのもわかる。
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