庶民の俺が金持ち練に編入するまで

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重々しい豪華な理事長室の扉を開けると、奥に理事長が革の高そうな椅子に座っていた。理事長に指示されその前のこれまた高そうなソファに腰掛けると、風見さんが俺の隣に座る。 理事長は優しげな、白髪の眼鏡をかけ髭を蓄えたおじ様だ。入学式や行事の際にたまに見かけるくらいで、話すのは勿論始めて。 「よく来たね。単刀直入に言わせてもらおう。桜舞くん、君の叔父さんの事なんだがね」 「叔父さん……?」 「そう、君の叔父さんだよ。仕事で急遽アメリカに飛び立つことになったと昨日の夜連絡があってね……。全くいつも急なんだ、何度私が都合を合わせてやった事か……」 「アメリカですか……!?というか、理事長と叔父さん面識があったんですか?!」 驚いた俺は思わず身を乗り出す。 「アイツは君に私のことは話していなかったかな。私とアイツは大学時代の友人でね……。昔から突飛な奴でねぇ、周りも大変な思いをしたもんさ。……おっと話がそれたね。 それで、君と叔父さんは二人暮しだったろう?最近はお友達の家に泊まっていたと聞いているけれど、アイツがアメリカにいけば君は1人になってしまう。そこで、我が校の寮に君を入れたいと……」 そこまで言った理事長は考え込むように口元に手を当てた。 俺は幼い頃に両親を事故で亡くし、それからはずっと叔父さんと2人で暮らしてきた。それがまさか、急にアメリカに飛び立ってしまうなんて。いつも突飛で自由人で連絡無沙汰な人だと思っていたけれど…。 「理事長、私が呼ばれた理由もお聞かせ願いたいのですが」 風見さんがそっと話に入る。 理事長はああ、と1つため息をついて話を始めた。 「実は桜練の寮に今空きがないんだ。年々生徒数が増えて寮を希望する生徒も増えてね…。増築しなければと思っていた矢先にこの話が来てしまって。 だからね、空いているのは白百合練の寮だけなんだよ。そこで風見くんも合わせて相談をしたいと ── …」 理事長から出てきた言葉に耳を疑う。白百合練の寮に俺が……!?無理だ、無理でしかない。あんな金持ちの中に庶民の俺に入れっていうのか?そもそもそんな金があるわけが無いし。 「お言葉ですが桜舞はずっと桜練で過ごして来たでしょう。突然白百合練に移れば周りは知らない人間ばかり…。環境的にも金銭的にも難しいのでは」 風見さんの的確な言葉に必死に頷いた。高校1年の夏手前、ようやく友達も出来環境にも慣れてきたというのにまたガラリと環境をかえろというのか? 寮だけ変わるのなら…とも一瞬考えたが、食堂も部屋も白百合寮で過ごすと思うと心臓が持たない。 理事長は風見さんの言葉を聞いて眼鏡を軽く触る。 「それがね…。桜舞くん、君の仲のいい友人に鳴宮海斗(なるみやかいと)くんという子がいるだろう?」 「えっ?…はい、いますけど…」 海斗は俺の幼馴染だ。金持ちなのに金持ちらしくない性格で、何がいいのか昔からずっと俺に引っ付いて回る変な奴。俺と一緒がいいと小・中・高と俺と同じところに入学するくらい俺に懐いている。 「鳴宮くんがどこからこの話を聞きつけたか知らないが、今朝方俺も一緒に白百合練に移る、金は俺が負担すると言ってくれていてね」 頭をガツンと殴られたような感覚に、生唾を飲み込んだ。海斗が…?でも海斗は理事長室に呼び出されたと言う俺を笑顔で見送っていた。…………嫌、確かに謎に機嫌が良かったような気もする。 「…それから、ここは大人同士の問題で君を巻き込むのは申し訳ないんだが。鳴宮くんご両親から常々、鳴宮くんを白百合練に移したいという話が出ていね。つまり寮だけでなく練も。 こちらとしても、成績優秀で家柄も良い彼には是非白百合練に来て欲しいんだ。しかし彼は君がいる限りは自分も桜練にいると…。」 そこまで一気に言い放つと、理事長はまた眼鏡の位置を手で直した。 「…………鳴宮くんのご両親がこの機会に桜舞くんも一緒に白百合練にどうか、資金はこちらが出すと申し出があって。どうだろう?悪い話ではないと思うがね」
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