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自分の家に帰ろうと、校門に向かうと海斗が門に凭れて俺を待っている。帰っていていいと言ったのに、待っているなんて律儀な奴。
でもそれよりも先程の話を聞いたばかりの俺はムッとしたままズンズンと海斗の元へ歩み寄った。そしてそのまま、海斗の頬を抓る。
「いひゃいいひゃい!なんで抓るんだよ!」
海斗がいつものようにふざけて泣き真似をするが俺はそれどころでは無い。
「なんでって分かるだろ!俺に相談もせずに変なこと決めて、海斗のご両親にも迷惑かけてたって話じゃん。なんで言ってくれなかったんだよ?」
「えー、だって言ったら断るだろ?それに、親からずっと白百合練に行けって言われてていい機会だなって思ってさ」
なんの悪びれもなくそう話す海斗に体の力も抜ける。何を言っても無駄なんだ、昔から。あまりベタベタするなと何度注意してもところ構わず抱きついてくるし。
「海斗さ、確かに俺はお前の幼馴染だけどお前の負担になりたいなんて思ってないし、もう餓鬼じゃないんだからいい加減俺から離れて……」
帰り道を歩きながらそう言うと、海斗はいつものようなふざけた笑みを消して真顔で俺を見る。その表情にドキリと心臓がなるのが分かった。
「負担なわけないじゃん。それに、俺お前の母さんからお願いされたんだ。いつまでも鈴離と仲良くしてね、守ってあげてねって」
「馬鹿!そんな小さい時の約束守らなくていいんだよ。お前にはお前の人生があるだろ?お前が俺にくっつきすぎて周りからはデキてるのかなんて言われるしさ」
俺がそう言い返すと海斗はサラサラとした綺麗な栗色の髪の毛をかきあげた。
「馬鹿じゃねーよ。俺はしたいからそうしてるだけだし、別にからかわれても嫌じゃないから」
「…………なんでお前はそんなに意地っ張りなんだ。そしてなんでお前は当たり前みたいに俺ん家に着いてこようとしてるんだよ」
「だって引越しすることになるだろ?荷物まとめるの1人じゃ大変じゃん。手伝ってやるから入ろうぜ」
「引っ越しっていってもこの家手放すわけじゃないし軽く洋服とかまとめるだけだから手伝いなんて──、おい押すな!」
俺の言葉も聞かずにグイグイと俺を押そうとする海斗にため息をつく。コイツ、またなんだかんだいって泊まっていく気だ。
───────
俺が観念してドアを開けると、最近帰っていなかったせいもあり部屋の中に人の気配はない。テーブルの上に紙が置いてあるかと思えば、叔父さんの字で『急にアメリカに行くことになった、ごめんな!後は篁に任せてあるから!』と走り書きがされている。
……まったく、なんてテキトーな人なんだ!篁というのは理事長の苗字だけれど、言ってしまえば赤の他人に俺を押し付けて行ってしまうなんて。
なんで俺の周りには変なやつばっかりなんだろ。どんよりとした気持ちになりながら洋服をまとめにはいる。
メールを見れば理事長から、日曜日は寮でゆっくりと過ごして欲しいので土曜に荷物を運ぼうと連絡があった。荷物が多ければ業者を雇って整理もさせるとあったが、荷物量は1人分だし多くないので丁寧に断りを入れる。
洋服を纏めていれば俺の下着を海斗が勝手に仕分けしようとするのでそれは俺がやると取っ組み合いになり、一時家に帰らないだろうと風呂を掃除していれば飽きたようにシャワーを俺に浴びせてびしょ濡れにさせてくるもんだからまたそこで海斗を叱り、俺は絶対に1人の方が早く整理が進んだと恨めしい気持ちで海斗をジト目で睨むはめになった。
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