庶民の俺が金持ち練に編入するまで

8/10
前へ
/43ページ
次へ
いくら不安がらなくていいぞ、と言われていても、やっぱり不安になるくらい白百合寮は大きかった。俺の家の何倍あるんだよってくらいデカくて綺麗で豪華だ。 俺が門の前で立ち竦んでいると、それを理解したらしい海斗が俺の肩に手を回す。 「おいおい何緊張してるんだよ?俺の家だってデカいだろ?」 「そりゃデカいけど、海斗は幼馴染だからあんまり金持ちって感覚がないんだよ。ここいっぱい金持ちいるんだろ??どうしよう、誰かのもの壊したりして弁償とかなったら……」 「はは、その時は俺が払ってやるよ」 「か、簡単に払おうとするな!そういうのはよくないんだぞ!それにお前の金じゃなくて親の金だろ?」 「…まぁ確かに。あ〜あ、早く働いて鈴離を養ってやりてぇよ」 なんで俺がお前に養われる前提なんだよ、とも思ったが明らかに俺を和ませるために言っている海斗を見て思わず頬が緩んだ。昔から優しい奴なんだよな、変だけど。 そう思いながら2人でマップを見つめて風見さんの元へと向かった。 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 風見さんの部屋のチャイムを押すと、出てきたのは風見さんではなかった。風見さんと同じように黒い髪、赤い眼をしているものの、雰囲気がガラリと違う。 クールな見た目ながらも優しかった風見さんとは違い、思い切り「軽そう」な雰囲気を漂わせているその人は、不機嫌そうにドアを開けたと思えば俺を見て少し目を丸くすると、少しニヤリと口を歪ませた。 「あんた誰?」 「あ、あの俺は桜舞鈴離です。コイツは鳴宮海斗。今日から白百合寮でお世話になる予定で、その…風見さんを…」 「風見?俺も風見なんだけどなぁ」 「……へっ?」 ニヤニヤと意地悪な笑顔を浮かべるその人に、俺の頭はフル回転した。そしてひとつの答えを導き出した。 確か風見さんには弟さんがいたはず。そして今年入学してきたはずだ。俺たちと同じ1年生。 言われてみれば似ている気がする。雰囲気は随分違うけれど。 「あ、そのお兄さんの方を…」 俺が緊張しながらそういうと、また弟さんは俺をニヤニヤと見つめながら呼んであげようか?と言う。お願いします、と返すと呼ぶと言ったのにその素振りを見せず何故か未だに俺をじっと見ている。 俺の顔に何かついているのだろうか。不思議に思っていると、弟さんはぐいっと手で俺の頬を引き寄せた。 突然のことに固まっているとまたもジロジロと俺の顔を眺めている。 な、なんだ?何が起こってるんだ?? 「おい、鈴離から手離せよ」 後ろで聞いていた海斗が今までにないくらい低い声でそう言うと、回り込んできて弟さんの手を振り払うと俺を腕の中に引き寄せた。 「……何お前。…あ?お前鳴宮んとこの…」 怪訝そうに海斗を見た弟さんが、そう呟く。 「この前のパーティではどうも。とは言っても話したことねぇけど」 ……パーティ。 そうだ、忘れてたけど海斗も金持ちなんだった。パーティに参加したりしてるんだ。そういう話、海斗は嫌がって話してくれないから何だか新鮮だな。 「ふぅん。そいつ、お前の彼女?」 「違います」 恐ろしい言葉が聞こえたような気がして即座に否定を入れると、不機嫌になる海斗と対照的にくつくつと笑う弟さんという構図が出来上がった。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

172人が本棚に入れています
本棚に追加