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才能がないなんてマオは言ってたけど、これは才能よ。体の中全部、ドラマーなの。そうなろうって思ったところで、こうはなれないわ。
いつだって体がドラムに触れたいって叫んでるのが聞こえる。何よりもドラマーに必要な物を持ってる。腕はまだまだだけど、生粋のドラマー。
「外側から順番にね。でも、間違えたっていいわよ。殺されやしないから」
「勘弁してくださいよ!」
一緒に声を立てて笑う。こんなどうでもいいことが、すごく大切に思える。
あたしも老い先短いしね? なーんてね。でも、この子と一緒にいられる時間は、もう先が見えてる。
あたし、今日56歳になったのよ?
あと20年ってところかしらね。ばあさんになんかならないわ、ってマオには言ったけど、寿命はあるもの。
20年なんて、すぐ。あたしの歳になれば、あっという間。
明日やっと29になるマオには、この感じはわからないと思う。きっと、20年も一緒にいられる、って思ってるでしょ。
マオの29年のうちの20年と、あたしの56年のうちの20年。割合が全然違う。
20年後、マオはまだ今のあたしの歳にすらなってない。そしたら、次のいい人を見つけるでしょうね。ちゃんと忘れてくれるかしら。
……柄にもない、か。そうね。考えたって、あたしが若返るわけじゃないんだし。
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