第5話 パパは三ツ星

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第5話 パパは三ツ星

 ドアが開かない。  美術室の入り口は二つある。  もう一つへ向かおう。 「こっちも鍵がかかっているのじゃ」 「新井ひかるさん」  ドキンコ!  後ろから声がしてハートが金魚さん。 「じゃのじゃの。新井ひかるじゃも!」  振り返れば、高泉部長だった。  私の心臓が壊れたAIみたいになってしまった。 「原美縁さんはいませんか?」 「毎週ピアノを習いに行っているのじゃも」  先輩は俯いて残念そうな顔をする。  私は深く傷付き、喉につかえるものがあった。  口にしてはいけない悪い言葉を飲み込んだ。 「原さんは、よく歯磨きをするので、昼休みの方が時間がとれそうじゃ」 「ああ、教えてくれてありがとうございます」  先輩は、しばらく考えてから、ぽそりと落とした。 「あの……。さ」  返球するしかない。 「どうしたのじゃ」 「新井さんって個性的な話し方をすると思いませんか」  ええ!  そこの深掘りは、危険だ。 「よく牛乳を飲んだからこうなったのじゃも」 「それだよ。『よく牛乳を飲んだからこうなったの』の方が格段にいい」  語尾がこうなったのには訳がある。  でも、それを先輩に言ってしまっては、本当に私の心臓がどうにかなってしまう。 「すまんのじゃも……。気を付けるですます」 「分かってくれればいいよ」  すっかり金魚のハートになってしまい、それからぐっと俯いた。 「高泉部長、整理が終わったので、先に出て欲しいです」 「ああ、了解」  ◇◇◇  それから、どこをどう坂を駆け上がったか覚えていない。  ただ、胸で佐祐殿とシーナの名を幾度となく叫んでいた。 「フォーリンラブじゃよ。父君、私をぎゅうするのじゃ、いや、ですます」  逞しい腕が私を包んで来た。 「ひかる、でこぺしはしませんよ。よしよし、辛かったんだね」 「学校でのことは、何も聞かないんじゃも? いや、ですか?」  ほろっと来た所で、シーナも声を絞り出してくれた。 「……家帰れ、ひかる」 「じゃもんって、ママの口癖だったのじゃも――! 佐祐無双されてもよいのじゃ……」  だから、だから、パパは三ツ星じゃもん! Fin.
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