いじめられっ子だった私は悪役令嬢となってさえ、貫き通さねばならないのです!

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 着ているものが古くさくたって、ボロボロだって私はよかった。第一に食べるものを探すことに日々執心していたし、お母さんもお父さんも本当にやさしくて、自分が困っているような気持ちになどなったことがなかったのだ。学校の帰りに里山に入ることなんてザラだったし、タモを持っていって水路をすくうことさえあった。そりゃ、貧乏はつらいことだろう。たしかに自由な時間を持って遊び回る級友がうらやましくないわけではなかった。でも、裕福でさえ両親のこころに恵まれない友人たちがどれほど悲しい日々を送っているか、話を聞けば自分の貧乏さなんて不幸のうちには入らないと思えていたんだ。  けれどもいじめは突然はじまって、学校中に広まるのに時間はかからなかった。子どもはつまらないことをするもんだ。ひとりでは弱いからみんなで集まって暮らしているのに、生活を立てるに人と協調したことのない人間は誰かをはじき出す口実を見つけて遊び出す。たしかに私は学校の大半の子より大人になっていた。ばかだなあ、なんて適当にあしらってさえいたのだ。でも、どんなにくだらない理由でも、反社会的な口実でも、いちど群れてひとりを攻撃しはじめたらどんどん歯止めがきかなくなる。どんなに筋を通して生きたって、あらゆる暴力をふるってへし折りにくる。私は家族が喜ぶ食べもの探しを隠れてしなければならなくなった。  そうして運悪く草むらから頭を出したところをいじめっ子に見つけられた私は、すぐそばの水路に蹴り落とされた。アザができても我慢していた私だけれど、そのとき太ももに走った痛みは衝撃的だった。いやな音がした。身体を支えられず頭から落ちた私は一気に水を飲み込んで急激に意識が遠のいていった。蹴られた脚は動かなかった。  感覚がよく分からなくなって、私の頭には人生にずっと重なってきた中傷の数々が流れていった。お前、臭くねえか? やだ、きたない。寄らないで、ニオイが移る。貧乏人ってやだね、卑しくて。能なしな親の元に生まれると憐れだなあ……違う、それは違う! どうやったって不平等な社会で結果を能力のみと結びつけるのは卑怯だ! 私のお母さんもお父さんも、できること全部やってくれた! 撤回しろ!  でも……私は大事なものに吐き出された呪いの言葉、たった一言さえ覆すことができずに死ぬんだ……無能がいるとしたら、私かな……。
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