いじめられっ子だった私は悪役令嬢となってさえ、貫き通さねばならないのです!

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「メイドたちが随分と意欲的になったな。これは勤労に対して褒賞を与えるべきかも知れない」 「お嬢さまの演説が功をなしていらっしゃるのです、旦那さま」  私がお父さまの居室のドアをノックしたとき、お父さまはちょうど執事のジョゼッフォさんと出掛ける準備を完了させたところだった。 「ルアンナ、どうした? ルアンナも行きたいのかい?」  お父さまは今日、ほど近い王都へ旅立つ予定だった。おおよそ一週間。できることは山ほどあるだろう。でも。 「いえ、特にいま王都でやりたいことはないのです。私がついて行けば旅費も嵩むことでしょう。その分があれば、民に」  お父さまは微笑んで、言う。 「そうだね。お土産はなにがいい」 「よろしければ、王都には各国の情報が集まるでしょう。なにか目新しい技術が仕入れられておりましたら、そういった情報誌をお願いできますか?」  お父さまは、そうしよう、とお答えになった。 「お見送りいたします。そうだ、イザベルさんがお菓子を焼きだしたのです。とてもお上手で。分けてくださいますので、お父さまの分もお持ちします。旅の途中でお腹が空きましたら、是非お試しになって。門前でお待ちくださいませ」 「お父さま、お気をつけて行ってらっしゃいませ」 「行ってらっしゃいませ、旦那さま」  お菓子を包んでくれたイザベルさんほか、数名のメイドがお父さまを一緒に見送ってくれた。旦那さまがお口になさるなら、もっと豪華にすればよかったわ、とイザベルさんが言う。 「それより、商品にする予定のものをいただきたいわ。お父さまはきっと美味しいものもたくさん知っていらっしゃいます。売れそうかどうか、目星が付きますよ。それに」  私はイザベルさんの正面へ立って見上げた。 「お父さまはきっと皆さんが普通に食べているものを同じように召し上がりたがってるわ」  メイドの皆さんが口々に、旦那さまなら、そうですわね、と言う。私はそう返ってくることが堪らなく嬉しかった。愛するものが愛されていること、至上の喜び。 「お嬢さまは」  いつの間にかジョゼッフォさんが屋敷に戻っていた。お父さまの代わりの簡易的な執務が、これからジョゼッフォさんを待っている。未熟者の私が手伝えることは、まだない。 「お望みはないのですか? 旦那さまが気にしていらっしゃいました。ルアンナさまが精力的な面ばかりみせてくださると。休息となるようなものを、欲しがらないと」  私はちょっと胸が冷たくなった。そうなのだ、私は本を読む楽しみを知ったけれど、世に楽しみはいくらでも存在する。 「そうですね。わたしは皆さんがいてくださって、本当に助かっています。でも外では社交とか、そういう肩の張るお付き合いが多いのです。私にはお友達はおりません。私に魅力がないのですから、仕方のないことなのですけれど。……そういうお付き合いができる方が、私には」  そうなのだった。私は前世でもこちらでも、友人には恵まれていないのだった。メイドたちが慌て出す。そんな、お嬢さまは素敵な方です、お嬢さまほどの方はこの世にはそう。嬉しくて、悲しくて、私は笑顔で涙してしまった。恥ずかしい。情けない。私は自室へ駆け込んだ。  ジョゼッフォさんはそんな私を、真剣に見つめていた。
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