いじめられっ子だった私は悪役令嬢となってさえ、貫き通さねばならないのです!

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……………… ………… ……  光を感じて目を開けると豪奢な天井が飛び込んできた。身体は重くなかった。私はふかふかなお布団の中で寝ていて、誰かに助けられたようだった。もぞもぞと手足を動かして、やっぱり異常のないことを確認した。 「公爵、お嬢さまがお目覚めに!」 「ああ、ルアンナ!」  声がして顔を向けると、妙な服を着た西洋人が半腰になって私をのぞき込んでいた。西洋人といえば服装は確かに西洋の時代小説の挿絵にありそうだった。でも、言葉はちゃんと分かる。意識して聴くと日本語ではない。スムーズに頭に入ってくるので顔に違和感を覚えなければ気づかないところだった。学校で習った英語とも違う。 「あの……あなたが助けてくれたんですか?」  眼鏡の初老男性のほうが感激したように胸に手を当てて私に恭しく頭を下げる。 「もったいないことでございます……できることをしたまでで……」 「ルアンナ、痛いところはないのかい?」  心配げに顔を寄せる、中年と呼ぶにはまだちょっと若さの残る男性は、私を見てさっきから「ルアンナ」と呼ぶ。人違いにせよ、日本人にルアンナはないだろう。ちょっと困って、私は素直に返答するに留めた。 「はい、大丈夫です。ありがとうございます」  男性ふたりは喜び合って話している。若いほうが初老のほうに頭を幾度か下げ、返すように初老のほうも頭を下げる。それにしてもずいぶん質のいい服を着ている。時代がかっているし、そもそもここは日本だし、コスプレっていうものなのかも知れないけれど、遊びにしろ普段からにしろ、こんないいものを着られるなんて私とはずいぶん立場の違う人たちなんだろう。  見回してみると部屋全体がテレビで見た西洋の宮殿のようだった。装飾は過多でやたら広い。遠い向こうに小机と化粧鏡が置かれていて、ちょっと見入ってしまった。つやつやの白でふちが金色をしている。貧乏がつらくないとはいえ、いいものには憧れる。  そこで揺れる影に違和感を持った。視線を鏡に向けると金色の頭が動いた。豊かな髪の内側に透き通るような白色が収まっていて、あまりの美しい肌にそれが顔だと気づくのが遅れた。しかしまあ、美しい人間の存在するものだ。東洋的な美というものは存在するけれど、西洋的なそれは実に華やかだ。白い肌にくちびるがずいぶん色づいて見える。  ほう、とため息をついて私はまた違和感を覚えた。あれ、ベッドに横たわるこの女の子、私を見つめ返しているけれど……ベッドの中にいるのは?  布団から腕を引き抜いて顔を触った。違和感ない。私の顔だ。いや、ちょっと滑らかすぎる気がする。鼻もこんなにとがっていたっけ?  飛び起きて裸足のまま鏡に近づいた。さっきの金髪の女の子がどんどん大きく映されて、じゃあ、これは!? 「私!?」  ペタペタ顔を触りながら私は言った。足を見る。白くて細い。と言うか裾。なんだこの寝間着は? 長い。ドレスのようだ。たかが寝間着なのにやたら滑らかな生地を使っている。 「お嬢さま! いきなり起きてはお身体に障ります!」  ようやく医者なんだろうと理解した初老の男性が言う間に若いほうの男性が駆け寄ってきて抱きかかえられた。 「ルアンナ! 頑張り屋なのは知っているけれど、無茶はいけないよ!」  そのままお姫さま抱っこというものをはじめて経験させられて、私はドキドキしてしまった。連れ戻されたベッドで布団を引き被って……って、そうじゃない! 「あの、私!? ……ルアンナ?」 「え、はい、ルアンナさま」 「どうしたんだい、ルアンナ。やっぱり調子が……」  やっぱり私がルアンナなようだった。
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