いじめられっ子だった私は悪役令嬢となってさえ、貫き通さねばならないのです!

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 中央に広い所領を持つ私の家は王都にほど近く、そこにはこの時代、あるいはこの世界の粋というものが恐らく集まっているだろう。貧乏だったのがいきなりお金持ちに生まれ変わったのだし、華やかなところには興味がないわけではない。せっかく出かけるならそういうところに行きたい気持ちはあるけれど、きっとそんな場所は人があふれている。とりあえずのところ、しばらくは所領の野辺をうろつくことにした。影になるものが少なければ見通しやすく、近づいてくる前に人に気づきやすい。  今日はお父さまが忙しいようで、使用人伝いで護衛の話を聞かされた。お父さまが遠出をなさるときにいつも付き添う衛兵をつけてくださるらしい。  それで玄関ホールに出ればフル装備の男性が五名ほど立って待ちかまえている。お父さまも相当心配していることは分かった。でも……。 「あの、人数を絞れませんか……目立つのがいやなのです……」  頭目らしき人に声をかけるとさすがはお父さまの付き人、 「これは……失礼しました。では、このものが有能ですので、お連れください。……ラドクリフ、お嬢さまを頼んだぞ」  すぐに対処してくれる。  有能だと言われたラドクリフさんはそうなのだろう、つかず離れずの距離を保って後ろについてくる。木陰を探して隠れながらあたりをうかがい、恐る恐る進む私は滑稽に違いないけれど、特段の笑みも浮かべず真面目な顔で私を見ている。 「変ですよね? いえ、変なのは分かっているのです」  笑わない彼に私は苦笑いしながら声をかけた。ラドクリフさんは苦渋の顔をする。 「申し訳ありません……我々がもっと気をつけていれば……お嬢さまは」  はっとした。ああ、私の言葉は護衛についていた彼らをなじるものだったんだ。ラドクリフさんもその場にいたんだろう。少なくとも身内の誰が悪いわけでもなかったのに。 「ラドクリフさん」  うつむいたラドクリフさんが顔を上げた。 「お嬢さま、私などに敬称は」 「お父さまは人間が誰であれ尊重されることを大切になさっているのでしょう? でしたら私もそのようにするまでです。特別なことではないですよ? 人間はそうやって歴史の中を進んできたんでしょう?」  こんどはラドクリフさんがはっと息を飲む番だった。 「私はお父さまをラドクリフさんたちが守ってくださっていることを幸運に思いますし、感謝しています。ですから悪者が存在するとしても、少なくともあなたたちではないと私は胸を張って答えますし、きっとお父さまもそう考えているはずです」  押し黙ってじっと私を見つめるラドクリフさんのくちびるが震えた。これ以上の言葉は不要だろう。  私は場の空気を変えるようにわざと大きく息をついた。 「ちょっと休憩しましょうか。冷えてしまっているでしょうけれど、お茶を持って来たんです」  小高い丘の木陰で、ラドクリフさんも一緒に座らせふたり、冷めたお茶を飲んだ。
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