いじめられっ子だった私は悪役令嬢となってさえ、貫き通さねばならないのです!

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「怖くはあって滑稽なことなんですけれど……やっぱり外はいいですね」  私たちを守って揺れる立木をかすめて空を見る。どこの世界もこんな色なんだろうか、元いた世界と同じような空が広がっている。ラドクリフさんはあたりに気を配りながらことなげに、落ち着いた声で応える。 「旦那さまからそう、お嬢さまのことうかがっております」  ベルさんもそう言っていた。私が乗り移る前からルアンナは外が好き。まわりが驚いていたのは来客を罵ったことだけで、私がこの子に乗り移ったのは似たような私たちの運命だったのか。近い性質に、悪意を受けた私たちの。  そういえば前の世界とはちょっと風の匂いが違うかな、そんなことを考えてあたりを見回していると、背面の坂から栗色の頭が見えてくる。人間だ、知らない人間だ。硬直する思考と身体がその頭のほうへ視線を釘付けにする。  だんだん露わになってきたその人の全体像に私はちょっと安堵した。比較的小柄で細った女の子だった。歳は自分と同じくらいに見える。じっと顔を凝視して、なんとなく近しいものを感じた。人の良さそうな、悪くいえばちょっと気弱な顔。  ラドクリフさんが気づいて立ち上がった。彼女はまだ気づかない。私も服の裾を持ち上げて立ち上がった。  彼女は下を見てゆっくり登ってきた。私の正面近くに来るまでそのままだった。私の脚が見えただろうか、はっとした顔を急に持ち上げて私を見た彼女は、……ひどく怯えているようだった。 「驚きました? ごめんなさい」  私は精一杯の笑い顔を浮かべつつ、こころの中に湧き上がってきた感覚を反芻していた。彼女の顔に覚えた親近感はなんだろう。そしてこのじわじわ湧き上がってくる不安感は。 「いえ、大丈夫です。私の方こそ」  少しほっとした表情をしつつ、慎重にラドクリフさんのことをうかがっている。 「私、ちょっといじめに遭ったの……騎士さまがそれで一緒に散歩についてきてくれたんです」 「へえ……私にもそんな人がいたらなあ……」  心底感じ入ったように彼女は言う。ああ、そうなんだろう。彼女の表情に覚えた親近感は、感じた不安は、他者に責められ続けて弱ったこころが表出しているからだ。 「ラドクリフさん、ちょっとこの方とお話ししたいの」 「では、少し離れて辺りを見張っています」  お父さまの付き人とはさすがなもの、以心伝心したようにラドクリフさんは身を下げた。
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