プロローグ わたし、ほむんくるすでした

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Ⅸ 夜来光(イェライシヤン)  アイリスが就寝すると、マリアは大きな花びらに変わった。その花びらがアイリスを包み。そして、別の場所。食事部屋で紅茶を飲むクララの前に、マリアは現れた。 「あいかわらず、神出鬼没ね」  「あなたこそ、万物の水じゃない」 「ふふ。確かに。それで? 今回の件はどうだったのかしら」 「あの子、泣いていたわ」 「ニュクスの闇に触れたからでしょう。『彼女』との結合の片鱗ね」 「そうね」 「すべて、予定通り。ようやくね。マリア」 「えぇ」 「最後の嘘は、あまりに残酷じゃないかしら」 「不必要に傷つける必要もないわ」 「そう」 「神格化の際、フッド家三者の血を合わせることは絶対の条件だった。だから、それを『会えた』と定義するのならば嘘ではないと思うし」 「詭弁だわ。意思なき邂逅はただの同一化。川と海の境界線が分からないようなもの」 「汽水という存在の仕方もあるわ。どちらにせよあの子にはまだ理解できない概念なの」 「まぁ、そうね。して、次はどうするのマリア」 「赴くままに。またの機会に、お礼をするわ。クララ。なにかあったら頼ってちょうだい。私にはカドゥケスを通じて『三叡智の錬金術師(トリスメギストス)』の力も加わったのだから、できることは増えるわ」 「そのうち、神罰に会いますよ。マリア、いいえ……マリ」 「ご忠告ありがとう。シスター。けれどその程度で『彼女』を救えるのならいくらでも」 「そういうことにしておくわ。とりあえず一件落着ね。次の段階は『夜の女神』かしら」 「まだよ。もっと、もっと先。その時、きっと私はいない」 「母との子を望み、母を求めれば求むるほど母の喪失に近づいてく。こんなの喜劇だわ」 「そんなもの、かもしれません。それにしても……腰が重いわ。まずはお師様のところに行かなくては」 「ふふふふふふ。がんばってねぇん。賢者の石はさすがに一筋縄ではいかないわよ」 「そうね」 「がんばりなさい。マリア。では。聖母の良き導きを」 「ありがとう。あなたにも、良き導きを」  クララだったものは、形を失いただの水へと還る。花たちの花弁に玉雫を落とし。そして、土へと染み込んでいった。マリア、その人もそこに既になく。アイリスを抱き、夜は更けていった……。  ―― 流れる銀と盗賊と  END――
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