光を浴びて

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光を浴びて

季節は過ぎ、年を越え、春を迎えた。 僕と京平は、今年も桜コントグランプリ(Sーワン)に出場し、どんどんと勝ち進んでいった。 パチパチパチ、幕が上がる。 『どーもー ノーヴェンバーでーす。 ショートコント、メガネ屋・・・』 『すいませーん 最近、急に目が悪くなって』僕がお客役。 『さようですか、お客様、目は2つでよろしかったですか』京平、早速のボケ。 『見りゃ分かんだろ、ゲゲゲのオヤジか、俺は?』 『そうですか、では、まずクレームから選んでいただきましょう』 『フレームだろ、フレーム! たしかにクレーム言いたいけどよ』 『ではお客様、これなんていかがでしょう?』 (試着して)『いいねって、おい! これ仮想パーティーで使う鼻つきメガネじゃないかよ!』 『ええ。花粉対策もバッチリです』 『ふざけんな!』僕はメガネを投げつける。 『ウフ。今なら皆様に花粉対策用の目のマスクもプレゼント、不織布なんですよ』 『へー、目にマスクって・・・ただの眼帯じゃねえか!』 『両目にすれば効果絶大です!』 『なんも見えねーよ、おい!』 『はは、冗談ですよ。それでは、かけると相手が透けて見えてしまうというすっごいレンズはいかがでしょう?』 『それってなにかい? 服とかまで透けちゃうわけ?』 『ムッフッフ。お客様も助平な・・・。お任せください。お客様の思い通りです』 『そう?』(かけてみる) 『みんな骸骨にしか見えないじゃねえか、馬鹿野郎! 誰が骨フェチなんだよ!』 僕と京平の掛け合いは練習の効果もあって、会場の反応も良かった。 その後は『タイムマシーン』『銀行強盗』『旅館の女将』・・・というお題。あれよあれよと言う間に決勝まで進み、気がつけば、審査結果を待つドラムロールが鳴っていた。飛び交うスポットライト。汗が滲む。 ジャラジャラジャラ、ドシャーン! シンバルが響く。 「優勝は・・・・ノーヴェンバー!! おめでとうございます!!」 テッテレーのラッパの音とともに巨大クラッカーそして紙吹雪。 「ノーヴェンバーのお2人、賞金1000万円!! どうですか、今の気持ちは? まず清水さん?」 「信じられないです。何がなんだかわかりません。ありがとうございます」僕はそう言ったあと、ほとんど何を言ったか、何をしたか、ほとんど記憶がない。フワフワと中を浮いているような感じ。泣いていたんだろうか、自分でもよくわからない。  その晩は祝勝会と称して事務所が深夜までパーティーを開いてくれた。僕は酒のせいでこれもまた記憶にない。 ホテルに泊まったらしいが、朝は早くから、事務所のスタッフが迎えに来た。 「今日からノーヴェンバー専属のマネージャーになった川嶋です。よろしくおねがいします。」30代くらいだろうか、女性のマネージャーだった。 「さっそくですがお2人は朝からワイドショーの生出演が詰まってます。すべて私が誘導しますから、言われたように動いてくださいよ。ああ、これ、本日の衣装のスーツです。サイズはバッチリです。頑張ってくださいね」
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