両親転送継母

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 女は氏なくて玉の輿に乗ると言うが、正に美穂は生まれが悪い代わりに器量は良いので才気煥発な実業家の下へ嫁ぐこととなり、暮らしぶりががらりと変わって若干21にして女の誰もが羨む貴婦人となった。  歳が夫となった島崎より19も下なこともあり上辺は柔順を装って良き妻となり、結婚3年目には男児、幸一を儲けて優しい良き母ともなった。  しかし、結婚10年目で島崎の不倫が発覚して結婚生活に破綻をきたした。不倫相手は雅美と言ってうら若き女性で、それに引き替え美貌が衰え始めた美穂に島崎は端的に言って飽きてしまったのだ。  結局、美穂は島崎と離婚して島崎から慰謝料と養育費を受領し、幸一を連れて大阪にある実家へ帰ることとなった。  で、暮らしぶりは一転、地味になり落魄した。そうなると一度いい思いをした女というものは、俗世での栄耀栄華を理想とし、仮初にも解脱を目指そうとする筈がない所以から偏にとことん惨めになるものだ。女に聖人君子や隠者や逸民がいないのはその為で美穂は時には気狂いのように泣き喚き、心が荒む一方で美貌も益々衰え、当然の如く良き母親ではなくなった。  幸一はその変わり様をつぶさに感じ取ったが為に母が大好きだったのに大嫌いになり、徒でさえ転校先に馴染めなかったのに家でも馴染めなくなったので元気がなくなってしまった。そんな幸一に一向に優しく出来なくなった美穂は、或る時、「お母さんは顔も心も醜くなった!」と言われたことで暴力を揮うまでになり、負のスパイラルへ嵌って行った。  極めつけは雅美が島崎を行方不明者として警察に捜索願を出し、「大実業家、謎の失踪!」と報道された時だった。ピンと来た美穂は交通機関を利用して遥々島崎邸までやって来て門前に立った。テレビドアホンのボタンを押す。  チャイムを聞きつけ、モニターボタンを押し、最初、美穂の変わり果てた姿にそれと気づかなかった雅美は、「雅美はんかい!」と美穂にいきなり管を巻く浪花の酔っぱらいみたいにがなられたので驚きながら、「はい、そうですが」と答えた。 「われ、眠り薬で島崎を眠らせた後、テレポートマシンで葬ったんやろ!」 「えっ」 「財産目当てに!」 「えっ」 「何もかもお見通しやで!」  途方もない大金を支払って或る博士から譲り受けた、世界に一台しかないテレポートマシンがあるのを知っていることからハッと気づくに至った雅美は、確かに女の言うことも図星なので恐れをなして怖々訊いた。 「あ、あの、あなた、もしや美穂さん?」 「当り前じゃ!わてが美穂でなくて誰が美穂やねん!今更、何、抜かしとんじゃ!」 「あ、あの、兎に角、穏便に」 「穏便にやと」 「お金を差し上げますから」 「口止め料かい!」 「はい」 「ふん、よし、分かった」  そんな訳で美穂は口止め料を受け取るべく雅美に応接間に通してもらい、「あの、何で分かったんですか?」と問われた時、こう言った。 「われがした、まんまのことをわても企てたことがあるさかいなあ」  実際、自分も捨てられる前に島崎の財産を独り占めにしようと眠り薬を入れたコーヒーを島崎に飲ませ、寝入った島崎を裸にしてテレポートマシンの転送台に乗せ、南極大陸のど真ん中に転送した雅美は、美穂を請じ入れる前に美穂も転送しようと画策していた為、こいつは飲み物は警戒して飲まないから眠らすことは出来ないが、殴り倒すことは出来ると言わんばかりに隠しておいたゴルフクラブを持つや否や振りかぶって美穂の頭目掛けて振り下ろした。  いやはや果敢で残忍な奸計躬行、お陰で頭蓋骨陥没して意識不明の重体になった美穂を雅美は野獣の獲物にするべくテレポートマシンでアフリカのサバンナに転送してしまった。  その後、美穂の父が警察に捜索願を出し、これで世間的に美穂も行方不明となり、事実上、両親を失った幸一は、どういう風の吹き回しか雅美に引き取られることとなった。雅美が幸一を引き取らせて欲しいと幸一の祖父祖母に相談したところ、わしらは先行きが短いし、それに越したことはないと同意され承諾されたのだ。雅美が25、幸一が10歳の時だった。  これで幸一は元の学校に通えることとなり、幼馴染や旧友との仲が復活して学校のみならず家でも上手くやって行けるようになった。と言うのもこのままだと、この世では成功してもあの世では地獄行きだと流石に悪びれて罪滅ぼしをしようと自分を引き取ってくれた雅美が優しくしてくれるので雅美を好きになり、良き継母だと受け入れたからであった。  で、「お母さんは顔も心も綺麗だ!」と幸一に褒められると、その都度、雅美は極まりが悪くなって苦笑する仕儀になるのであった。    
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