くらやみ療法

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 『苦しまず、楽に生きよう。病んでるのは、皆同じ』  (もえ)は入院している精神病院のポスターを見て微笑んだ。これは文字の頭を取って『くらやみ療法』と呼ばれている。萌は双極性障害だ。今は薬の作用で安定しているが入院したときは鬱でベッドから出るのも億劫だった。『くらやみ療法』は正確に言うと暗闇から抜け出そうという意味だ。この都内にある大きな精神病院には苦しんで入院して来た人が沢山いる。  二階の東側にある病室に戻る。個室で監視カメラはついていない。ここは重症の患者は二十四時間もモニターで監視される。萌は入院して最初の二週間は監視された。今は部屋にカメラはついていない。萌はベッドにうつ伏せになって本を読んだ。スマホが禁止なのでCDウォークマンで音楽を聴くか、本を読むしか暇つぶしがない。談話室にテレビはあるのだが、土曜日の昼間は老人たちがチャンネル権を握っている。萌は十九歳だ。詰まらないテレビを観るより本を読んだほうがいい。病院は怖い本は禁止されているがこれはファンタジーに近いものだ。
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