君は僕が一番愛する人

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繁華街の一角にある、会員制高級バー、フーイン。 外観は白を基調としたシックなたたずまいで、看板も小さなものがひとつあるだけで、ぱっと見は何の店かは分からない。 扉の脇にはインターフォンが設置されていて、そこで名乗って初めて中に入れる。 中国の黒社会で暗躍するギャング黒竜(ヘイノン)の幹部の男が出入りしているとのタレコミがあったのは3週間前だ。国際指名手配されているその男は覚醒剤の密売人でインターポールが行方を捜している。 「(りん)ちゃんご指名よ」 お店のニューハーフはいずれも美人揃いだ。 オーナーが中国人らしく、ホステスはみな艶やかなチャイナドレスで接客している。 無名の新人を指名する客などいるのか、訝しげに思いながらも、テーブル客に中座の失礼を詫び、指定客の元へ向かった。 「本日はご指名をいただきましてありがとうございます」 挨拶し、深々と下げた頭を上げテーブルを見ると・・・・・・ 「げっ!」 美しい装いとは似つかない声が漏れてしまった。 ソファー席にゆったりと座り、長い足を組んで不機嫌そうにしていたのは、姉さんの元婚約者の長谷川さんだった。 「警察官を突然辞めたお前を俺がどんな思いで探していたと思う?」 「言わなかったのは悪かったよ。てか、言えなかったんだよ。姉さんを殺したアイツに引導を渡すのは僕の役目だ。アイツは用心深い。なかなか尻尾を現さない。こうするしかなかったんだ。帰ってくれ」 手を振りほどき立ち上がろうとしたら腕を掴まれた。 「ここは一見すると会員制高級バーだが、梶山組の上田が黒竜の幹部をもてなすための性接待が堂々と行われている。クスリを打たれたら最後・・・・・・」 「ほっといてくれ」 僕を心配する長谷川さんの気持ちは嬉しい。 でももう遅い。 「私の琳をいじめないで欲しいな」 臀部を撫でられ、腰を抱き寄せられた。 「琳に折角会いに来たのに・・・・・・」 「ごめんなさい。先客があって」 熱っぽい眼差しで見詰められるだけで腰のあたりが甘く疼く。 この男は危険だ。分かっているのになぜか惹かれる。 「真面目一徹の公務員の相手より私の相手をするほうが何倍も楽しいぞ。琳、奥の部屋に行こう」 ピタリと身体を寄せる男を長谷川さんが鬼の形相で睨み付けた。 「彼をどうする気だ?ヤー」 くくく、男が不敵な笑みを浮かべた。 「待っ……っん……!」 頤を掴まれたかと思うと突然唇を重ねられ、そのまま深く貪られ苦しさに息も出来なくなる。 奥まで舌を挿し入れられ、柔らかな粘膜をいいようにねぶられ、息を継ぐようにして喘ぐと、今度は擽るようにして歯列を舐められる。 ゾクッと背を震わせると、スリットの辺りを撫でながら、今度は、上顎のざらりとしたところを舌先で掠めるように刺激され、むず痒いような刺激に思わず鼻にかかった声が零れ、そのまま男に崩れるように身体を預けた。 「菱沼組と今すぐ手を切れ。それまで琳は人質として預かっておく。マトリの長谷川さん」 ふわっと身体が宙に浮いた。 もう後戻りは出来ない。 男に引導を渡すつもりが、逆に男が与えてくれる快楽の虜囚(とりこ)になってしまったのだから。
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