手放した月<6月>

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 スマートフォンが音を立てる。娘を片手に抱きながら、着メロ2コーラスでどうにか通話ONにした。 「はい」 「吾川です。中水さん?」  発信者など、見る余裕もなかったから。  声に思わず瞬いた。 「日本月面開発機構の吾川です。中水まどかさんの、」 「中水です。中水まどかです。吾川さん、お久しぶり」  娘が手の中で身動ぎする。いつもは授乳後寝てしまうことが多い。眠たいのだ。眠たいのだが。  私は寝かしつけることも出来ず、娘の頭を撫でてやる。  受話器の向こうで吾川は溜息のような息をつく。 「久しぶり。お子さん、無事産まれたって聞いたわ。元気?」 「私も娘も元気よ。おかげさまで」
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