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プロローグ
港には、外洋航海を終えたばかりの大型蒸気客船が停泊中だ。その煙突の先をかすめるように、海鳥が空を飛んでいる。岬を隔てて港の反対側にある砂浜からも、抜けるような青空に繰り返し円を描く翼が見える。白い鳥なのに、なぜ青空を背景にすると暗い影になって見えるのだろう。
これも、光の持つ不思議な性質のひとつなのかもしれない。
世界は、必ずしも目に見えるそのままの姿をしているとは限らない。欺かれることもある一方、それが救いになることもある。
足元へと目を落とすと、白茶けた砂粒の間に、空の破片を落としたような光が見えた。
革のサンダルの底を前後に動かす。午後の日差しに温められた砂が、爪先からさらさらと流れ込むのがくすぐったくも心地よい。
砂に半ば埋もれていたのは、ガラスの破片だった。
拾い上げてみると、青瑪瑙のような美しい色をしている。波に洗われ、すっかり角が取れて丸くなっているので、まるで遺跡から出土した古代帝国の装飾品か何かのようだ。
海の向こうから運ばれてきたものだろうか。
そのガラスの欠片をレンズのようにかざして、波打ち際の方を見てみる。
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