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僕はすることもなく 妻の遺品の整理でもしようと押し入れを開けた。下着やパジャマ類を捨てただけだ。
僕に負担をかけないように、無駄なものはなかった。それがまた、なんとも言えない寂しさを感じた。
すると、引き出しの下にクッキーのカンがあった。蓋を開けると『思い出🏍️日記 明恵』という表紙が黄ばんだノートがあった。
なんだか胸騒ぎがした。見ては行けないかもしれない。いや この世にいないんだから…いいだろう?そう自問自答していた。
日記をめくるとすぐ写真に目がいった。白いポロシャツにポニーテール…キュロットから覗く膝小僧が可愛い。
明恵…だ。
サラサラノの髪は風になびき少しだけ口元で止まっている…爽やかな笑顔だ。 大型バイクに乗ったオールバックの男…黒いTシャツの袖を肩までまくしあげ、筋肉質な腕でロッカーそのものだ。もう1人はスッキリとした顔立ちで…少し僕に似ていた。
このバイク…たしか…。
なぜだろうバイクを見ると、不思議な感覚が走る。頭の中にバイクのエンジン音がする。どこかの湖…ふわりと風の匂いさえ感じた。
ページごとに写真を貼りby鬼川温泉 by中前寺湖と書き添えてあった。高校生らしいだんご虫が転んだような字だ。
妻の秘密を知ったような後ろめたさに、クラッと眩暈がした。
最後のページに住所と名前、宮内将生と書いてあった。
このまま死のうかと思っていたが、どうせ死ぬなら、この住所を訪ねてからにしようと決めた。この男に会ってやろうと思った。
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