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「ママ!…ちょーだい!」
地べたに座り込み、足をバタバタして駄々をこねる三才ぐらいの男の子の声で、張りつめた空気が緩んだ。
「 どうせなら 世界遺産巡りしないか。 俺達よく来たよな…3人で」
“3人でよく来た…か。”
「あれは男大山だ…2486メートル。冬場は圧巻だぞ。こっちが中前寺湖。その先に突き出た岬は…紅葉の時期はすごく綺麗だぞ。それから…あの山が」
宮内さんは、郷土愛が半端ないようだ。勝手にダラダラと喋ってる。
ふと、美崎の目からツーッと流れるものがあった。
“ …涙? ”
「…ここでプロポーズされたんだって…お父さんに」美崎はひとり言のように呟いた。
プロポーズ…俺が…。今まで何度と聞かされたかも知れない。でも…やっと今、素直に受け入れた。それはストンと胸の中に落ちた。
美崎の17才の誕生日に、明恵が頼んでおいた指輪が完成したらしい。美崎は明恵の指輪も持っていた。指から抜くと「ちょっと貸して」僕の指輪を抜いた。こうやって3本の指輪をくっつけると…
「朱色の橋 神朱橋になるんだよ。」
男大山と女大山から流れ落ちる水は、この橋の前で合流するのだそうだ。僕はこの指輪に込めた明恵の気持ちを理解できた。美崎と目があった。そこには晴れ晴れとした笑顔があった。
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